3.手打ち銅鍋職人
安福 保弘(やすふく やすひろ)さん 61歳 本町2
すべては明石のために
(掲載日:2003/05/04)

自由自在に銅版を操って

一枚の銅板を思い思いの形に変えていく。「深いところも浅いところも厚さを均一にすると、玉子焼きはおいしくなる」=本町2

 明石名物の「玉子焼き」専門店は、市内に二百店ほどもあるといわれる。週末には店頭に行列が出来たり、新たにオープンする店があるなど、根強い人気を見せる。店員はさいばしを手際良く転がし、“ふわふわ”の食感を客に届ける。厨(ちゆう)房ではコンロにかけられた銅鍋が、油を得て黒光りしながら、生地が入ってくるのを今か今かと待っている。

 銅鍋は、玉子焼きに欠かせない。銅は伝導性が良く、均一に火が回るのが利点だ。中でも手打ちのそれは、精度が特に高いという。最近は機械製も流通しているが、「手打ちは丁寧に作られており、どの部分の厚みも限りなく均一になる。火の通りがよいから、玉子焼きの味が引き立つ」という。

 安福さんは、手打ちの製造を一手に引き受けている。創業百二十年の三代目。後継者がいないため、市内最後の銅鍋職人といわれている。

 銅にも種類があり、粘りの強いものを選ぶ。バーナーで銅板を柔らかくしては、銅を傷めないよう樫(かし)の木槌(づち)で打つ。その作業を、根気強く何度も繰り返す。作業所には、形を少しずつ変えた銅板が所狭しと積み重ねられていく。

 安福さんは銅板を自由自在に操る。遊び心で、さまざまな形に挑戦する。店内には、銅製品がずらり。用途に合わせた玉子焼き鍋のほか、普通の玉子焼きの数倍の大きさの「爆弾焼き」を作るための銅鍋も。「後は使うもんの気次第や」。自慢の“作品”に目を細める。

 安福さんは銅鍋などのほかに、自ら調合した特製の玉子焼き粉も販売。さらに業務で必要な人には、妻の久子さん(59)が出張で焼き方や鍋の手入れを徹底的に指導する。家庭で楽しみたい人には、口頭で伝授。そんな夫婦二人三脚の丁寧さが、口コミであちこちに広まっていった。

玉子焼き店で油になじみ黒光りする銅鍋。ここから“ふわふわ”が生み出される=明石市内

 市内だけでなく、全国に“得意先”を持つ。それでも、景気が悪くなって、買い換える人が減った。

 その代わり最近は、体験学習の一環として市内の小学校や福祉団体などにボランティアで教えにいくことが増えた。

 手打ちの銅鍋を作り続け、玉子焼きを広める日が続く。マスコミの取材も快く引き受けている。その根底にある気持ちはひとつ。「明石にしかないものを広めたい。自分で焼く喜びを伝えたい。すべては明石のため」。その郷土愛が、銅鍋を通じて、多くの人たちへ届けられる。

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