5.回帰(2004/09/05)
問題へ共に向き合う
 
 「ちょっと聞いてほしいことがあるんや」。西神吉町での事件の数日後、加古川市内のある町内会長のもとを一人の男性が訪れた。男性はゆっくりと、しかし、たまっていた思いをすべて吐き出すように話し始めた。

 「聞けば聞くほど、うちのとそっくりや。いつ何があるかもしれんと思たら不安で不安で…」

 その男性は、自分と家族が近所の男から言葉による暴力を受けている、と訴えた。すれ違うだけで因縁をつけられ、道端で世間話をしていると「おれのこと話していたやろ」と脅される、と。

 七人刺殺事件で逮捕された藤城康孝容疑者(47)の周辺住民に対する行動を報道で知り、その酷似ぶりにがく然としたのだった。

 心当たりはある。以前に男がけんか騒ぎを起こした際、仲裁に入って、厳しく叱責(しつせき)したことがあった。

 「あの時のことを、今も恨んでいるのかもしれん」。男性は言葉を選びながら切々と語った。町内会長は警察に相談してみてはどうかと尋ねた。「被害がないのに警察が動いてくれるわけがない」と言うと、男性はあきらめ顔に変わった。

◇       ◇       ◇

 事件後に西神吉町で「心のケア相談会」が開かれた。集まった十五人の町内会長を前に、連合町内会長の松浦芳樹(63)は「これからは地区の中で抱え込まないで、積極的に相談してほしい」と呼び掛けた。

 一年前に四人殺傷事件が起きた志方町行常地区では、孤立しがちな人物に対して共通の理解を持ち、行事への参加を呼びかける。地域に溶け込める環境づくりを目指して。「みんなが顔を合わせてたら、何とかなりますわ」。町内会長の堀田益弘(62)は気負わずに言った。

◇       ◇       ◇

 「藤城容疑者のような存在は、ほかにもいる」。取材に対して、多くの住民がそう口にした。しかし事件は、効果的な手を打てないまま起きた。「仕返しが怖い」。そんな個々の住民の思いが、ぎりぎりの所で行動を鈍らせた側面があった。

 求められるのは、問題を正面から受け止められるコミュニティーの力。そんな「地域力」よ、よみがえれ。(文中敬称略)

おわり

(横田良平、渡辺裕司)

 
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