とにかく医師がいない
「医師の不足で、産婦人科の後任二人を派遣することはできません」
加西市北条町横尾の市立加西病院。「まさか…」。院長の山邊裕(55)はわが耳を疑った。「加西で子どもが産めなくなる」
それは突然だった。今年三月、加西病院へ医師を派遣してきた神戸大学の医局から、一本の電話が入った。これまで勤務していた二人の医師が、五月末にほかの病院へ異動することになったが、後任の医師二人のめどが立たず、補充できないということだった。
加西市には、民間の産婦人科医院がない。市内で唯一“お産ができる場所”が消えた瞬間だった。
数日後、山邊は神戸市にある神戸大学医学部にいた。医師確保の交渉のためだった。多忙な外来診療の合間を縫って訪れた。
「うちが産婦人科を休診してしまうと、加西市内で子どもが産めなくなってしまうのです。何とか後任医師をお願いします」。白衣ではなく、スーツ姿の山邊は、ひたすら頭を下げた。
しかし、医局側の返事は変わらなかった。「とにかく医師がいないのです。大学でさえ不足している。こちらが欲しいくらいなんです」。地域の病院に医師を派遣し、地域医療を支え続けてきた大学病院の医局でさえ、深刻なスタッフ不足に悩んでいた。
◇
五月末、静寂に包まれた加西病院の分(ぶん)娩(べん)室。二十四日に生まれた赤ちゃんを最後に、病院で産声が聞かれなくなった。
いつでも再開できるように、設備やベッドは整えられたまま。「早く再開したい」。そんな思いを込めて、事務局長の古角隆夫(55)が、静かに分娩室の鍵をかけた。
=敬称略=
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北播磨で出産できる病院や赤ちゃんを取り上げる医師が減っている。二〇〇三年四月、公立社総合病院(加東市)が産婦人科を休止。〇五年六月に小野市民病院(小野市)、同七月に三木市民病院(三木市)が続いた。今年六月には加西病院も休止を決めた。背景には全国的な産婦人科医不足や新研修医制度などがあるという。地域医療に異変が起きている。苦悩しながら奮闘する院や医師、困惑する妊婦ら住民。まちの医療に何が起こっているのかを探った。
(末永陽子)
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