降ってくる「公害」 検証・神鋼粉じん問題

   
2.不満噴出 (2006/08/11)

環境基準なく規制枠外

 データ改ざんという神戸製鋼所加古川製鉄所始まって以来の不祥事は、周辺地域に根深く潜んでいた社会問題を一気に噴出させた。いわゆる、粉じん問題である。

 背景には「神鋼との信頼関係が失われた今、もう住民が泣き寝入りすることはない」(別府町新野辺の男性)という構図が浮かび上がる。同製鉄所の幹部らは連日、住民説明会に奔走するが、そこでの住民の声は「粉じんを減らして」にほぼ尽きる。

■4割が関連

 「粉じん」とは大気汚染防止法で「物の破砕やたい積に伴って発生・飛散する物質」とされ、同製鉄所周辺には、製鉄所内の貯鉱・貯炭ヤード=図=から飛散する鉄鉱石や石炭を含む大量の粉じんが降ってくる。これに対し「ばい煙」とは、主に燃焼に伴い発生して製鉄所の煙突から排出され、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)を含む。今回、改ざんが発覚したのはばい煙の測定データであり、粉じんとは関係ない。

 神鋼は六月二十二日の会見で、粉じんと加古川製鉄所との「因果関係」を認めた。独自の測定結果から「粉じんのうち不溶性が六割弱。うち七割が製鉄所関連の可能性が高い」(越智英昭・同製鉄所副所長)とした。つまり全体の約四割が神鋼関連ということになる。

 神鋼側は昨年八月、付近住民から粉じんサンプルの提供を受け、電子顕微鏡による成分解析を実施。結果は、二階居室で鉄系38%、炭素系19%のほか、土砂系28%など。自然界の一定量を考慮しても、同製鉄所と「相当の因果関係がある」(越智副所長)ことが明らかとなり、「黒い粉が降る」と訴える周辺住民の声と一致した。

■内陸の3倍

原料ヤードに野積みされた石炭。飛散を抑えるために散水や薬剤散布が頻繁に行われている=加古川市金沢町、神戸製鋼所加古川製鉄所(7月30日)

 粉じんをめぐり、神鋼側は「(周辺住民の)直接の健康被害はないと思っている」(犬伏〓夫社長)と繰り返す。大気中に浮遊する粉じんに関して国の環境基準はなく、健康への影響が懸念されるという数値上の線引きは存在しない。

 加古川市は市内八カ所の観測点で、自重や雨で地表に降る粉じんなどの「降下ばいじん」量を測定。同製鉄所が立地する臨海部の降下量は内陸部の三倍と突出し、近畿最悪レベルの数値であるにもかかわらず、市幹部は「環境基準という行政目標がない以上、量的に多い、少ないの評価はできない。従って減らす方向での強い指導は直ちには困難」と話す。

 一方、代表的な汚染物質のNOx、SOxや、降下ばいじんよりも細かな浮遊粒子状物質はすべて環境基準を達成しており、市によると、臨海部を含めても、市内全域における大気環境の概況は「おおむね良好」(環境部)となる。

 神鋼は年内に、飛散量低減の目標値を公表する。さらに住民の健康不安払しょくに向け、他の製鉄メーカーに協力を求め、国内の粉じん発生地域での健康保険適用実績などを調査。同製鉄所社員の健康診断結果も含め、呼吸器系など疾病との関連を調べるとしている。

 今月二日夜の住民説明会で「鉄は百年の歴史。(健康へは)問題ないと考えている」と述べた同製鉄所幹部。しかし、その言葉とは裏腹に、周辺では真夏でも窓を開けることのできない民家が多いのも現実である。

(神鋼問題取材班)

▼住民の声から

粉じん被害知って

 毎年、屋根のといに固まって流れず、雨があふれる。 (別府町、62歳男性)

 南風が吹く夏は窓を閉め切るしかなく、冷房代がバカにならない。網戸も敷居もすぐ真っ黒。ぞうきんを絞るとバケツの底に鉄粉がたまる。 (尾上町、71歳男性)

 洗濯物を外に干せないので乾燥機を買った。窓も開けられず、空気清浄機を買った。2年ほど前からは金属アレルギーも患い、精神的、金銭的に辛(つら)い。 (別府町、30歳女性)

 年末に網戸を洗うと、特に神鋼側の窓は真っ黒な汁が大量に出る。 (同、30歳女性)

 植木の葉に茶色いドロドロした物が長年付着していた。屋根瓦も、素足で歩くと茶色になる。 (同、64歳男性)

 長年続くせきが、まちを離れるとやむ。海外出張の時はのどの痛みもない。帰国後4、5日で再発する。 (加古川町、49歳男性)

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