「手紙」 ―芦屋から

震災12年

1.手探り (2007/01/11)

「なんか、伝わってきた」

朗読劇の台本。原作をコピーして生徒全員に配られた

 暗い体育館に、女子生徒の声が響き渡った。

 しかし、自分でマッサージの手を止めていました。いちばん好きだった娘の目が、私を見なくなるのに、耐えられなかった。「もう、いいよ」と、いってしまった。

 昨年十月二十九日、宮崎県えびの市。霧島連山を望む市立加久藤(かくとう)中学校の文化発表会で、二年生が朗読劇を上演した。

 「手紙 めぐりくる春に」。阪神・淡路大震災で長女=当時(15)=を亡くした女性教諭が、保護者にあてた手紙から生まれた。

 きっかけは昨年七月、神戸への修学旅行だった。生徒たちとともに、被災者から体験を聞くなど、震災に触れた学年主任の鳥越和弘教諭(42)は、宮崎に戻ると、秋の文化発表会に向け関連の資料集めを始める。

 活火山に囲まれるえびの市。約四十年前には死者まで出た大きな地震にも見舞われた。それも、この震災に引きつけられた理由の一つだった。

 朗読劇はその過程で知った。すぐに原作を取り寄せた。

 劇は四部構成。深い悲しみの中、光を探す遺族や、被災地の外との温度差に悩むボランティアの青年らが登場する。

 「残された者が生きて伝えなければ、という強い意志を感じた」

■ ■

 九月末から始めた練習。最初の読み合わせはスムーズだったが、程なく壁にぶつかった。

 娘を亡くした教師を演じた勝吉彩香さん(14)は、心臓マッサージの場面になると、立ち止まってしまう。

 「死ぬって?」。答えを探して、毎日、休み時間になると友人と一緒に脚本を読んだ。それでも「どう読めばいいか、分からなかった」。

 ある日、指導に当たっていた那須あさ子教諭(27)が、勝吉さんを屋外の階段へと誘った。

 「よう思い浮かべてん、ここは病院の廊下」

 隣に座って話しかけた。

 「たくさんの人が病室に入り切らんで廊下で横たわっちょったっちゃろ? 心臓マッサージを続けても娘の目の光がどんどん小さくなって、消えていく。自然と手が止まる。お母さんがいったいどんな気持ちだったか、考えてみらんといかんよね」

 多くの生徒がかかわれるよう、原作にはない群読も盛り込んだ。ほかの生徒たちも、見たことがない避難所や仮設住宅のイメージを膨らませようと、悪戦苦闘した。

 そして発表会の日。

 先生、いかがお過ごしでしょうか―

 幕が上がると、会場は静まりかえった。居眠りも、ひそひそ話もなかった。

 「なんか、伝わってきた」。仮設住宅のお年寄り役を演じた山住真里奈さん(14)は舞台の後、一年生からそう声をかけられた。

 来月、生徒たちは朗読劇を再演する。市の発表会。ほかの中学の生徒、小学生も見に来る。上演時間は短縮されるが、削りたくないせりふがあるという。

 「大切なことは、心で見るのです」

 「ぼくたちは今、ここに生きている」

 原作にはなかった一節。それが、生徒たちが受け取ったメッセージだからかもしれない。あの日に始まる「手紙」から。

 阪神・淡路大震災から十七日で十二年。時とともに体験を語り継ぐという営みが変容している。激しい揺れを経験したまちでは、震災を知らない人が増えた。一方、遠く離れた地に、あの日からの出来事を知ろうとする人の輪が広がりつつある。被災地で生まれた一つの朗読劇。かかわる人たちの姿を通し、伝えることの意味を考えたい。

(鎌田倫子)

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