美の城 ―第1部 白亜ふたたび

  

4.す さ (2007/01/06)

麻袋再生誇る白さ、強度
羊毛のようなすさが、白壁を強く、美しくする=姫路市網干区坂出(撮影・岡本好太郎)

  約七千平方メートル。姫路城の大天守は、日本の城郭建築史上、最大級の壁面積を誇る。軒裏にまで塗り込められた白壁は、床面積のざっと三倍。天然素材をふんだんに使った漆(しっ)喰(くい)は火や水に対する防備も万全で、朽ちることなく壁を守り、彩り続けてきた。そこには、滑らかな表面からは見えない秘密がある。

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 すさは、くさかんむりに「切」と書く。文字通り、切り刻んだ藁(わら)のこと。塗る際に壁土に混ぜることで乾燥や収縮を抑え、亀裂を防ぐ繊維質で、つなぎの役目を果たす。この補助材料のおかげで漆喰の粘着力が増し、城を長持ちさせる。

 荒壁には藁を、上塗りに使う漆喰には麻や紙を入れる。原料はロープや麻袋のくず、古い縄、げたの鼻緒に古い帳簿など、廃材を活用することが多い。

 すさは原料の加工方法やさらし具合、製造者や地域によって多くの種類や呼称がある。その数は十種類以上という。

 姫路城では、一九七三年から、櫓(やぐら)や土塀の漆喰の修復作業で使われてきた麻すさがある。

 「白(しら)雪(ゆき)」。その名は、白亜に輝く城にふさわしい。

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 生産工場は姫路市網干区坂出にある。「提(ちょう)灯(ちん)練り」で知られる魚(う)吹(すき)八幡神社に程近い一角、「三輪壁材工業」を訪ねた。

 きめ細かなすさが工場内の壁にへばりつく。約五種類のすさを手掛け、建材店などを通じ、北海道から九州まで全国に出荷している。複数の大規模なプラントがうなりを上げていた。

 「日本一を目指し頑張ってきた。同業者が次々と工場を閉め、いつの間にかそうなった」

 先代から工場を継いだのが約三十年前。社長の三輪喜美(71)は、ごつごつした手をさすりながら、少しさびしそうに笑う。

 麻すさの原料は、近くのコーヒー会社から廃品として集めた輸入品荷造り用の麻袋。これを水槽に浸して裁断する。漂白剤が入った直径約二メートルのさらし槽に入れかき混ぜた後、水気を切って乾燥させ、袋詰めにする。

 さらし槽に入れている時間が長いほど、漂白されて白さが増す半面、強度は弱くなる。三輪は最も白い麻すさを「富士」と呼ぶ。姫路城で使われている「白雪」は、「富士」よりも白さは劣るが、強度に優れている。

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 城の修復とともに歩んで約三十年。機械化で生産性を高め、息子たちと力を合わせ、激動の時代を乗り切ってきた。転機は、阪神・淡路大震災だった。

 多くの家屋が倒壊し、古い民家などの修復で一時的に需要は増えた。しかし、その後、プレハブ住宅の大量供給などで、もともと少なくなっていた漆喰壁を持つ木造家屋は激減。需要減に歯止めがかからず、三輪はやむなく値上げに踏み切った。

 「品質には自信はあるが…。大震災で、すさの衰退が十年は加速してしまった」

 廃材に再び生命を吹き込むすさは、城の美を支え続ける縁の下の力持ち。「『平成の大修理』が、人々が価値を再認識するきっかけになれば」。三輪は静かに願っている。=文中敬称略

(井関 徹)

 
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