日曜小論

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 「クラクフは一日にして成らず」。どこかで聞いたような言葉だが、ポーランドにそんなことわざがあるそうだ。

 南部の都市クラクフはかつての首都で、8世紀に築かれた城塞(じょうさい)が現在の市街地の起源とされる。日本で言えば京都のような位置付けか。

 広場がある中心部には教会の塔がそびえる。その塔から1時間ごとにラッパが鳴り響く。昨年、取材で訪れた時に乾いた音色を耳にした。

 ラッパは消防士が24時間交代で吹いている。そのいわれは13世紀にさかのぼる。

 モンゴルの軍団がアジアから攻め寄せた際、危機を知らせるラッパを兵士が吹き鳴らした。兵士はモンゴル兵の矢に射抜かれて亡くなった。その故事を伝えるためにラッパを吹き続けている。

 モンゴルの欧州侵攻は今も東欧に痕跡を残す。大敗を喫したポーランドでは、「受難」として歴史に刻まれる。

 700年以上の時間が流れても、侵攻された側では被害の記憶が受け継がれる。驚いたのはそのことである。

 日本は太平洋戦争終結から70年となる。先月、米議会で演説した安倍晋三首相は「痛切な反省」を口にした。「アジア諸国民に苦しみを与えた事実から目をそむけてはならない」とも明言した。

 一方で、村山談話などにあった「植民地支配」「侵略」「おわび」などの言葉は用いなかった。首相自身、そうした表現を使うことに後ろ向きとも伝えられる。

 「いつまで謝罪すればいいのか」。そうした声が日本側にあるのは事実だ。韓国や中国の批判が一層の反発を招く。このままでは感情の糸はもつれるばかりに見える。

 国や民族の間にはさまざまな記憶が積み重なっている。言葉一つをとっても過去を正面から語らないようでは未来志向の関係は難しいだろう。

 たかだか70年では受難の痛みは癒えない。それが世界史の教訓であれば、これからの和解の道のりが大切だ。

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