社説

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 戦後の平和主義を転換する安全保障法制をめぐり、世論が二分された昨年夏、反対運動を引っ張ったのは大学生らのグループ「SEALDs(シールズ)」だった。

 根源的な問いは世代や立場を超えて人々の心を揺さぶった。安保関連法は成立したが、運動は全国に広がり、安保法廃止など新たな目標を掲げる動きにつながった。

 今夏の参院選は「18歳選挙権」が導入される。試されるのは若者だけではない。一人一人が民主主義の担い手として目覚めることが大切だ。

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 安保法成立から約2カ月たった昨年11月13日夜。関西を拠点とする「シールズ関西」は神戸市のJR元町駅前で久々に声を上げた。掲げたのは「辺野古への新基地建設反対」。

 昨年2月、沖縄県名護市辺野古を訪れた同志社大2年の野間陸さん(20)は「僕は気づかないうちに犠牲を押しつける側に加担しているかもしれない。それが気持ちが悪くてしょうがない」と思いをぶつけた。

 他のメンバーも次々にマイクを握った。「無関心でいることが、沖縄への差別そのものだと思います」「私たちが自分のいる所から声を上げないと現状は変わりません」。足を止めた聴衆の多くは、雨が降り出しても立ち去ろうとしなかった。

立ち止まり考える

 「異なる意見を否定するのでなく、自分の中の違和感を丁寧に言葉にしている。過去の運動とは明らかに違う」と神戸女学院大名誉教授の内田樹さん(65)は分析する。

 その言動は上の世代も動かしつつある。半世紀にわたり平和、人権活動を続ける「I(アイ)女性会議ひょうご」(神戸市)は昨年12月、学習会にシールズ関西とブラックバイト問題に取り組む「関西学生アルバイトユニオン」の大学生を初めて招いた。

 シールズの女子学生(22)は「いつまでも夏の思い出話に浸っていないで、次に何ができるか考えないと」と冷静に分析した。同ユニオンの男子学生(22)は「学生を安い労働力としか見ない風潮と、何となく安保法も沖縄の米軍基地も必要だよね、と思う空気はつながっている。他人のしんどさに目をつぶる社会を一緒に変えたい」と訴えた。

 連帯を求める発言は、問題を先送りしてきた大人たちにも行動を迫る。同会議の川辺比呂子さん(64)は「若い世代に希望を託すだけでなく、もう一度、自分にできることをやろうと意識が変わった」と話す。

 第2次安倍政権の発足後、合意形成や結果の検証よりも「変える」「決める」を優先する政治が加速している。「急すぎる変化を危ないと感じ、立ち止まって声を上げる若者の登場は政治の速度を正常に戻す復元力になる」と内田さんは期待する。

 この夏、約240万人の未成年者が有権者に加わる。初めての選挙を前に模擬投票の推進や高校生の選挙運動の可否などが取りざたされる。

多様な政治参加を

 だが「政治参加=選挙、投票」と矮小(わいしょう)化するのは危険だ。新たな票を取り込もうとする政党や政治家から見れば選挙の時だけの「お客さま」で終わりかねない。自立した主権者を育てる機会を逃してしまう。

 市民教育事業を展開する「シチズンシップ共育企画」代表の川中大輔さん(35)=尼崎市=は、中高生が子どもたちの居場所づくりなどの地域課題を見つけ、解決策を考え、行動するプログラムを尼崎や京都で続けてきた。今年は神戸で高校生による新たな政策提言プログラムを企画している。「若者の声を本気で政策に反映させる大人の姿勢が問われる」と川中さん。同時に「在日外国人など選挙権がない人も排除せず、共に生きる市民だとの認識を共有する必要がある」と指摘する。

 批判的な意見に対し「文句があるなら選挙で落とせばいい」といった政治家の物言いが横行している。

 選挙は政治参加の重要な手段だが全てではない。白紙委任せず、監視を続け、おかしいと思えばデモなどで抗議する。行政への政策提言や議会への陳情請願もある。少数でも一人一人がさまざまなやり方で民意を示し続けることが、選挙至上主義への対抗手段になるのではないか。

 どこからでも民主主義は始められる。「民主主義って何だ」「勝手に決めるな」と、路上で声を上げた若者たちの姿がそう教えてくれる。

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