進む危機管理見直し 被災地企業
2003/01/16

 あす十七日で阪神・淡路大震災から八年を迎える。被災地の企業にとって予期せぬ大災害は、危機管理体制を見直す契機になった。震災後、多くの企業が新たな防災マニュアルを構築・整備してきたが、近年は東海地震などを想定した対策やテロの発生など新たな“危機”を見据えた指針の策定に取り組む例も増えている。複数の企業や行政が連携したネットワークづくりも始まり、新しい危機管理の考え方が被災地に生まれつつある。(足立 聡)

 ■備えあれば

 「会社への連絡が大切です。できるだけ早く電話を入れてください」

 神戸製鋼所は一九九六年、名刺大のカードにこう記した「地震の心得」を作成し、全社員に配った。会社への連絡方法や行動基準、緊急連絡先などが書かれ、常時の携帯を義務付けている。

 「まずは社員の安否の確認が最優先。多くは書かず、シンプルさを心がけた」と同社コミュニケーションセンター。このほか、非常食や懐中電灯などを入れた防災セットとヘルメットを配布し、担架や救急箱、ハンマー、バールなども各部署に常備している。

 ■マニュアル構築

 震災後、各企業では防災マニュアルや社内体制の整備が進んだ。

 コープこうべは、従来のマニュアルを見直し、緊急対策本部用やポケットサイズの職員向けなど四種類の「災害対応マニュアル」を策定した。

 また、組合員情報や取引先データがバックアップされていたため混乱が起きなかった点を重視。神戸市内の耐震設計の施設にホストコンピューターを移し、データ保護体制を強化した。

 社内ネットワークを使い、社員にマニュアルの周知や情報伝達を徹底する社も増えている。

 みなと銀行は九五年末(当時阪神銀行)に新マニュアルを作成。各部や営業店に配ったほか、行内ネットにも掲示した。

 神鋼やワールド、ダイエーも社内ネットで閲覧できる仕組みを採用。富士通テンは、災害情報や各種指示を社員のパソコンや携帯電話にメール送信するシステムを構築した。川崎重工業では神戸、東京両本社のテレビ会議システムが有効だったため、全工場に同システムを導入している。

 ■新たな“危機”

 近い将来の発生が危ぐされる東海、東南海、南海地震に加え、テロや不祥事、治安問題などを新たなリスクととらえて対策を練る社も目立つ。

 ダイエーは東海地震に備え、防災マニュアルに新たな内容を加えた。

 「地震発生前の警戒宣言が出れば、即座に営業を中止してお客さまと店員を一斉に帰す。発生後はすみやかに復旧して営業を再開する」(IR広報室)という具合だ。

 愛知県に工場がある三ツ星ベルトも昨年末、同工場向けの新マニュアルを作成。「従業員に日系ブラジル人がいるので、ポルトガル語の案内を盛り込んだ」という。

 米同時多発テロや相次ぐ企業不祥事などを受けて「危機管理」の概念を広げた社もある。富士通テンは二〇〇一年十月、「危機管理委員会」を社長をトップとする組織に格上げ。想定事例を海外での誘拐から自然災害や企業犯罪、地域紛争、環境問題などあらゆるリスクにまで拡大した。神鋼も〇〇年、災害に限らない総合的な危機管理マニュアルをまとめた。

 ■点から面へ

 神戸では、見直しが進む各企業の危機管理対策のノウハウを持ち寄り、より充実した体制をつくる全国初の取り組みが始まっている。

 〇一年四月に発足した「神戸安全ネット会議」(会長・室崎益輝神戸大学都市安全研究センター教授)。産学官の連携で危機管理システムのあり方や緊急時の協力体制などの研究に取り組んでいる。参画するのは地元企業や神戸大、京都大、神戸市など計四十五社・団体。講演会や各企業の事例発表などを通し、各社個別だった「点」での取り組みを「面」に発展させようとの試みだ。

 「最終的には研究内容をまとめて冊子にし、ノウハウの共有化や外部発信をしたい」と事務局の同市危機管理室。〇三年度は会員企業を百社にまで広げる構えで「異業種の企業が集まって知恵を出しあえば、新しい連携ができる可能性がある」と期待している。

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