|
理容店、東西で手順に違い
「どうぞ」「……」。就職を機に、関西地方にやってきた北海道出身の友人が、初めて関西の理容店に行ったときのこと。理容師に声をかけられた後、しばらく沈黙が続いたという。「『どうぞ』の意味が分からなかった。『シャンプー台で顔を洗って』ということだと、間もなく気付いたが、北海道の店では客が何かすることはない。関西流の“セルフ洗顔”に、カルチャーショックを覚えた」。驚きなのはこちらの方。理容店で客自ら洗顔するのは、全国共通でなかったの?(奥原大樹)
 |
| いすから少し腰を浮かした客が、シャンプー台で洗顔。理容店でよくある光景だが…=神戸市垂水区のヘアーサロン山内 |
▼満足感
神戸市垂水区の「ヘアーサロン山内」。理容業に携わって約四十年になる店主の山内良文さん(59)は「もちろん、ずっとお客さんに顔を洗ってもらっている」と力を込める。「どの店もこのやり方だったし、お客さんもさっぱりする。洗顔後、お客さんに洗いたてのタオルで顔をふいてもらうが、こちらの方がどこか衛生的な感じもするし」。傍らで男性客(27)がうなずく。「自分の手で洗顔するのは当たり前。よりきれいになる気がして、ちょっとした満足感を味わえる」
洗髪などの後、理容師がシャンプー台の蛇口をそっとひねる。すると、あうんの呼吸で客が水や湯を両手で受け止め、さっと自分の顔を洗う。探偵局の理容店利用者で知らない人がいないほどメジャーなやり方だ。
▼指導も
しかし、本当に関西流なのか?探偵局内では、全国的なものと思っている人も少なくない。
理容技術などの研究団体、日本理容技学建設会(東京)の会長、星野弘至さん(62)は「関西に多いやり方と聞いている」。また、山内さんの三男で、神戸理容美容専門学校(神戸市兵庫区)理容教員の伸也さん(27)は「専門学校の教科書には載っていないが、当校では、プラスアルファで指導することもある」と話す。
もしや西日本のスタイルということはないか? 疑い深くも、中四国と九州各県の理容組合に問い合わせてみた。その結果、「お客さまに顔を洗ってもらう店が多いのでは」という回答は中四国の幾つかの県にとどまった。「関西の理容店の八割ほどは採用しているだろう。半世紀以上前から続く方法のようだ」とは、兵庫県理容生活衛生同業組合の豊岡支部副支部長、水嶋光明さん(56)。やはり主流は関西といえようか。
▼地域性
でも、なぜ関西? この疑問に、同組合の教育指導部長、石田勝人さん(64)が答えてくれた。「理容店では前かがみのシャンプーが普通。だから、洗髪した際に顔に水がかかる。お客さまにすっきりしてもらうために、シャンプーの後、顔を洗ってもらうのが定着したのではないか」
さらに、関西と関東では、理容店の作業の手順が違うと指摘。「関西では、カット、シェービング、シャンプーの順が多く、それから仕上げなどに入る。対して、関東では、カット、シャンプーと続いて、シェービングへと移るのが主流で、その際、蒸しタオルでお客さまの顔をふくため、洗顔は必要ない」。関東や東日本では、理容師にすべて任せっきりということで、大いに納得。
ところで、理容について調べていくと、地域性がある事柄がほかにもあった。例えば、理容店のことを、東日本では「床屋」、西日本では「散髪屋」と呼ぶことが多い。また、同じパーマでも、関西の人は、関東に比べて強めにあてるのを好むのだそうだ。
一方、関西流のセルフ洗顔は、客があおむけになるバックシャンプーの導入が全国的に進み、関西でも少しずつ減っているという。バックシャンプーでは、客の顔に水がかからないためだ。
だが、調査中、兵庫県内の理容店ファンのこんな声をよく耳にした。「自分で洗顔しないと散髪した気にならない」「こちらから頼んででも、顔を洗わせてもらう」
自分も参加したい。これこそ関西人気質か。
|