はてな?探偵団

60.名字の「の」有無なぜ? (2007/03/14)

「山内」「堀内」…地域性が影響

 戦国武将山内一豊と妻千代を主人公に、昨年放送されたNHK大河ドラマ「功名が辻(つじ)」。番組をきっかけに今なお、一豊ファンが増えているという。探偵もその一人。ゆかりの掛川城(静岡県掛川市)を訪ね、書物も読みあさった。で、ここで質問。「山内」の正しい読み方は「やまのうち」、それとも「やまうち」? 前者とする人も多いだろうが正解は後者なのだ。しかし、考えてみると名字の読みは不思議。同じ漢字表記なのに「の」があったり、なかったり…。なぜ? 一豊のケースを引き合いに、調査してみた。(溝田幸弘)

高知城のそばに立つ山内一豊の像=高知市

▼2通りの読み

 まずは土佐藩主も務めた一豊の名字の読みをあらためて確認しておこうと、土佐山内家宝物資料館(高知市)に尋ねた。学芸員の藤尾隆志さん(30)は「やまうち、です」と明快に回答する。

 裏付ける史料も幾つか存在する。最古のものは、淀君に仕えた大蔵卿局(つぼね)が、江戸初期ごろにしたためたとされる一豊あての書状。「やまうち つしま殿」と平仮名で書かれている。

 藤尾さんによると、一豊の先祖は、同家に伝わる史料などから、鎌倉幕府の御家人、山内(やまのうち)首藤(すどう)氏と考えられている。祖先一族がその後、全国に散らばる過程で、「やまうち」と「やまのうち」の二通りの読みになったのではないかという。二つに分かれた時期や経緯は不明だ。

▼あえて「之」を

 混同されている「やまうち」「やまのうち」という二つの読み。しかし、「既に江戸時代に同じ現象が起きていた」と藤尾さんは力を込める。大名の名と所領地、石高などをまとめた「武鑑(ぶかん)」にしばしば「やまのうち」という振り仮名がみられるという。

 また、同一の漢字表記に複数の読み方があると、トラブルにつながる可能性もある。近代ならなおさらだ。このため、工夫を施す事例も出ている。

 アステラス製薬(東京)の前身で、大阪発祥の旧・山之内製薬。創業者は故・山内(やまのうち)健二さんで、社名と創業者名の漢字表記が違う。「『山内』だと人によって読み方が混乱する恐れがあるので『之』の字を入れた」(アステラス製薬広報部)。「やまうち」と呼ばれて困ったことがあったのだろう。

▼「やまの・うち」

 「山内」の他にも「堀内(ほりうち、ほりのうち)」など幾つかの名字は、同一の漢字表記なのに「の」が入ったり入らなかったり。一体、なぜこんなことが起きたのだろう?

 「そもそも名字の読み方に決まりはない。辞書にない読み方をする名字も多い」と語るのは「難読稀姓(きせい)辞典」(日本加除出版)などの著書がある名字研究家の高信(たかのぶ)幸男さん(50)=山梨県甲斐市。「例えば『生』という漢字は、名字に使われると『にゅう』『ぶ』など二十通り以上の読み方がある」

 高信さんによると、名字は八割以上が地名に由来。そして同じ表記の地名でも、地域によって異なる読み方をする場合がある。「例えば『内』は、北海道では『うち』ではなく『ない』と読む場合が多い。読み方の『の』有無も、地域性が影響しているのでは」と高信さん。

 なるほど。そうか、地域性か。

 ところで、最後に気になったことが一つ。細かい話だが、例えば、「山内」の文字の横に「やまのうち」のルビを振る場合、「やまの・うち」とすべきか、「やま・のうち」とすべきか?

 明確な規定はないが、「やまの・うち、だろう」と高信さん。「『山内』は山の内側、というような意味。『やまのうち』と読ませるなら、日本語として『の』は『山』につくはず」

 うん、納得しました。

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