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水と手入れで腐らせない
| ある日、探偵は煮豚に使うたれを見てふと考えた。「これ、いつまで使えるんだろう」。そういえば、代々受け継がれた秘伝のたれや出汁(だし)ってよく聞くけど、その中身は一体? なぜあんなに長持ちするの?(松本寿美子) |
▼継ぎ足し加熱
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| 長時間かけ煮込むおでん。出汁には多くの具材の味が染みている=神戸市兵庫区湊町、高田屋京店 |
まずは現場へ。初代からのウナギの蒲(かば)焼きのたれが伝わる芦屋市大桝町の「割烹 三佳(みよし)」を訪ねた。
創業八十一年。戦時中の空襲も、阪神・淡路大震災で店が全壊した折も奇跡的に残ったたれが、厨房(ちゅうぼう)の奥にある大きな円柱型の鍋の中にあった。
「基本的に腐るものが入ってないんですよ」と三代目の島谷充彦さん(45)。材料は主にしょうゆと砂糖、みりん。「どれも家庭でも長く持つものでしょう?」。確かに、冷蔵庫にも入れず置いてあるものばかりだ。
毎日ウナギの身をたれに浸しあぶり焼く。一子相伝のたれの配合は企業秘密=B減って浸しにくくなると、新たなたれを継ぎ足す。「一週間に二、三回足し、全体がよく混ざるよう火を入れる。その繰り返し」と島谷さん。
夏場は多い日で一日百匹、「土用(どよう)の丑(うし)」には四百匹を浸す。「長年かけて脂が染みたたれは、照りとコクが違う。たれでご飯を食べられます」
▼結合水でも油断は禁物
科学的に解明できないだろうか。武庫川女子大学に尋ねた。
食物栄養学科の松井徳光教授(48)は「たれが長持ちするのはまず砂糖、あるいは食塩がかなり入っているから」と話す。
食物が腐るのは細菌などの微生物が繁殖するためだ。食品中の水分には自由水と結合水の二種類があり、微生物の繁殖には自由水が必要。多量の砂糖や塩を混ぜた水は結合水になるため、繁殖できないという。
さらに、ナメクジに塩を振ると脱水して縮まる「浸透圧」の作用も働き、結合水の中では微生物は生存できないのだ。
「でも油断は禁物です」と松井教授。
「微生物は結合水に潜むわずかな自由水を見つけ出して繁殖します」と忠告。さらに出汁については「微生物は一定期間をかけて環境に慣れて増え始めるので、その前に加熱することが大切」。なるほど、増殖前の加熱が肝心なのか。
▼子育てと同じ
出汁の手入れについて、おでんが絶品の神戸・新開地の居酒屋「高田屋京店」で取材した。
二代目の鈴木一男(76)さんは、カウンター内にある特大の四角い赤銅鍋の出汁を、震災後十三年、途絶えさせることなく守り続けている。
かつおで取り、砂糖と塩で味付けした出汁。毎晩閉店後に具を取り出す。殺菌とともに成分がよく混ざり合うよう出汁を沸騰させる。その後、ザルでこして具かすを取り、深鍋に入れ、夏場なら鍋ごと冷ます。翌朝に今度は布でこし、定休日なら冷蔵庫に入れておく。
「手間がかかるから、子どもを育てるのと同じやねって言うてるの」と一男さんの妻、寛子さん(72)は笑う。牛すじなど具の味が染みた出汁はやはりコクが違うといい、「味に重みがあるっていうのかな。新しいものは淡泊なんです」と話す。
繁盛した日ほど新しい出汁の割合が多くなる。「常連さんは『出汁、新しくした?』って聞いてきます。よう分かってる」と寛子さん。
おでんをいただいた。白みそだれがかかった特大の大根、やわらかく煮込まれた牛すじ、ロールキャベツ…。よく味が染みていて味わい深い。
味は具が冷めるときに染みるといい、寛子さんたちは時折、具を鍋から上げたり、再び沈めたりを繰り返す。
「人の口に入るものは手間をかけることが大事。気持ちを込めればおいしくなるんですよ」と寛子さん。
んー、納得。 |