(掲載日:2002/10/08)
(上) 解体、検査の現場から 進む改良、作業変更に戸惑いも

 食に対する信頼を揺るがせる数々の不祥事の“幕開け”となったBSE(牛海綿状脳症、狂牛病)。国内で初めて発生が確認され、食肉処理場での全頭検査が始まって、もうすぐ一年になる。「市場には安全なものしか出ない」と農林水産省。しかし、消費者の食への不信は根強い。牛肉を中心に、食肉をめぐる現状を報告する。
(小林由佳、中本裕子)

◇解体作業に「新方式」

 神戸ビーフなど高級和牛を扱う神戸市長田区の市中央卸売市場西部市場の解体室に十月、新しい機械が導入された。「脊髄(せきずい)吸入除去装置」だ。

 BSEの危険部位の一つ脊髄が解体中に飛び散らないよう、牛の胴体に首からチューブを差し込んで吸い取る、いわば脊髄専用の掃除機。約三百万円。半額を国が補助する。

 「装置の効果は100%でない。手作業と合わせて完ぺきに取り除くようにしている」と市場長の河田昭弘さん。チューブで吸引後、電気ノコギリで胴体を二つに割る「背割り」を行い、残った脊髄を包丁などで削り落とす。

 現場からは「従来のように背割り後の手作業だけで完全除去できる」との声もあったが、消費者の不安を払しょくするためにも採用を決めた。

 兵庫県内には同市場のほかに「食肉センター」と呼ばれる食肉処理場が七カ所ある。そのうち西宮市、姫路市、三原郡三原町の三カ所が近々、同様の装置を導入する。

◇対応には限界も

 「ピッシングをやめようと話し合っているのだが、すぐには難しい」。淡路食肉センターの職員はこう話す。

 ピッシングとは、失神させた牛の頭部にワイヤ状の器具を挿入して脳神経組織を破壊する作業。これをしないと、解体作業中に牛の脚が激しく動いて現場職員がけがをする危険があるという。

 しかし、厚生労働省は昨年十月に出した「食肉処理における特定危険部位管理要領」で、ピッシングについて「中止が望ましい」とした。作業で危険部位の脳や脊髄が漏れ出る恐れがある―との理由だ。

 県内八カ所の食肉処理場のうち、三カ所は長年ピッシングをしていない。残り五カ所は、器具の塩素消毒を新たに行うなどして、現在も続けている。

 なぜ、やめられないのか。

 淡路食肉センターは「処理場が狭く、作業員がいざというときに逃げるスペースがない。現場の安全確保を考えているところ」。姫路市食肉センターは「ピッシングなしの作業には熟練がいる。簡単には切り替えられない」と説明する。

 県生活衛生課の横山安雄課長は「ピッシングを行う処理場は、一頭ずつ器具を替えたり洗浄を徹底したりして、安全性に神経をとがらせている。とはいえ、できるだけやめるよう、研修などを通してピッシングなしのノウハウを伝えていく」と話す。

◇検査体制は大丈夫?

 昨年十月十八日から、食肉処理されるすべての牛にBSE検査が義務づけられた。三段階の検査=図参照=でどれも「陽性」と出ればBSEと判定される。これまでに全国で五頭の感染牛が見つかり、いずれも乳用のホルスタイン種だった。

 兵庫県内の各食肉処理場内では、食肉衛生検査所や保健所の獣医師が「スクリーニング(ふるいにかける、の意)」と呼ばれる一次検査を行っている。今年九月末までに約七万四百頭がスクリーニングされ、結果はすべて陰性。二次検査には至っていない。

 「一次検査は十以上の作業手順があり、当初は夜遅くまでかかることもあったが、今ではすっかり習熟した」と神戸市食肉衛生検査所の瀧田政男所長は自信を見せる。BSE対策のために各検査所はスタッフを増員、四月以降、県内で十五人が新たに配属された。

◇感染ルート未解明

 全頭検査により、市場に出る牛肉の安全は確保された。だが、肝心の感染源やその経路は未解明のまま。「犯人」と疑われる肉骨粉は、輸入、国内での製造、出荷が禁止されている。

 経路解明には死亡牛の検査が有力と指摘されるが、ほとんど進んでいないのが現状。八月末までに国が行ったサンプル検査はわずか八百五頭だ。

 国は二〇〇三年度から、生後二十四カ月以上の死亡牛の全頭検査を始める。二十四カ月未満だと病原体が検出されないという。対象は、推計で年間七、八万頭。死がいの集積場所や結果が出るまでの保管施設をどうするかなど、課題は多い。

上  この連載のTOP HOME

Copyright(C) 2002 The Kobe Shimbun All Rights Reserved