(掲載日:2002/10/09)
(下) 生産、流通、そして食卓 今こそ問われる消費者の意識

 この牛は、どこで生まれ育ち、どのような経路で店頭に並んだのか―。BSE(牛海綿状脳症、狂牛病)発生を機に、こうした情報をたどれるトレーサビリティー(追跡可能性)システムをつくろうと国は取り組むが、まだ発展途上だ。一方、消費者ができることは何だろうか。

◇小売店の試み

 「お肉の枝肉番号 0639」

 神戸市東灘区、生活協同組合コープこうべ「シーア」の牛肉コーナーに四日、四けたの数字入りパネルが掲げられた。

 今年六月から始めた独自のトレーサビリティーシステム。同生協のホームページで枝肉番号を照会すると、子牛の登記証や出荷までの治療歴など「履歴書」が見られる。今のところ、国内産地と提携して生産する自社ブランド牛肉が対象だ。

 きちんと管理されているという安心感からか、「売り切れるのが早い」と担当者。ただ、ホームページで確認できる資料は一般消費者にはやや専門的なため、商品開発室の長野正・統括部長は「分かりやすいものに改善したい」と話す。今後、豪州からの直送肉も対象に加えるという。

 スーパー「ジャスコ」は店頭にパソコンを置き、掲示した牛肉の番号をもとにその場で生育履歴を検索できるシステムを始めた。現在、二十九店で実施。兵庫県内では十日にグランドオープンする伊丹店に導入する。

◇農家からの動きも

 「正直、消費者は遠い存在だった。でもこれからは、それじゃあダメ」。多可郡黒田庄町で但馬牛を肥育する川岸裕人さん(42)は語る。

 川岸さんが会長を務める「県産和牛肥育研究会青年部会」は、淡路島の子牛生産農家や神戸市内の精肉店主と連携して、「生産者の顔が見える安全な肉」づくりに力を入れている。

 種つけから子牛の誕生、出荷までの約二年半、成長ぶりや血液検査の結果などを記録。エサにもこだわる。店頭には「○○さんが繁殖・育成して、△△さんが肥育した牛です」などと農家の顔写真を掲示する。

 約五年前に着手し、今年二月、第一陣の二頭が神戸市内の十七店に並んだ。残念ながら牛肉の市況が落ち込んだ時期で、セリ値はそれほど上がらなかったが、消費者の反応は上々だった。

 「自分たちの顔が出るので、いい加減なことはできない。緊張感と責任感が高まった」と川岸さん。同じように育てた牛が、来年春ごろに市場へ出荷される予定だ。

◇情報リレーに「壁」

 国が整備を進める牛肉のトレーサビリティーシステム。十月から、ホームページで十けたの家畜個体識別番号を入力すると、生年月日や性別、飼養地などが確認可能になった。

 「だが、現時点ではまだ不十分」。全国約四百五十万頭の牛に識別番号を付け、データベース化を進める特別行政法人家畜改良センター(福島県)の担当者は認める。

 というのも、同センターのデータには食肉処理場までの情報しか記録されない。卸売りや小売りなどの流通段階では、各業者がデータを管理し、店頭での表示は業者に任されている。中には複雑な流通ルートもあり、「データ管理に手間がかかって店頭表示なんて無理」と話す小売業者もいる。

 そのため国は、店に並ぶ牛肉のパックに識別番号を表示するなど、消費の最前線まで情報が届くようなシステムの拡充を検討している。しかし、それらにかかる費用を、だれがどのように負担するかはまだ不透明だ。

 個体識別番号に関するホームページは(http://www.lin.go.jp/)

◇選ぶ目養おう

 「消費者は今こそ、過剰な国産信仰やブランド志向を見直すとき」と訴えるのは関西消費者協会の林郁・理事長。

 トレーサビリティーシステムは、いざというときの「保険」にすぎない。食の安全のためには、検査体制の強化やモラル向上など、行政や企業、生産者の取り組みが不可欠。そして、消費者の努力も必要というのだ。

 例えば、表示を確かめる。ちょっとしたことでも店員に尋ねる。それでも不審な点や分からないことがあれば、保健所や行政の消費相談窓口などに問い合わせる。最近は省庁がホームページなどで意見を公募することも多く、それらを利用して発言する―。

 「食の生産や流通に関心を持てば、極端な消費行動はなくなるはず。まずは、誠実に対応する店を“発掘”し、応援していこう」と林さんは呼びかけている。

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