番外 全国大会の議論から
(掲載日:2003/07/05)

病院、わが家… 最期はどこで

 住み慣れた家で最期を迎える―。かつては「自然なこと」とされた「在宅死」だが、今では「病院死」が八割を占める。だれもがいつか直面する終末期医療。最期の日々をどこで、どのように過ごすのか。看(み)取る家族をどうやって支えるのか。このほど神戸市で開かれた「日本ホスピス・在宅ケア研究会」の全国大会の議論から、終末期医療の現状や課題について報告する。(終末期医療取材班)

 

在宅
家族の負担が壁/地域で生活支援を

 がんなどの末期患者や家族を病院内で援助する「施設ホスピス」に対して、自宅で療養する患者や家族を支える取り組みを「在宅ホスピス」という。最近は兵庫県内でも、医師の往診と訪問看護・介護などを組み合わせた在宅ホスピスが広がりを見せ始めている。

□実現難しい

 在宅ホスピスでは、家族が介護での大きな役割を担う。しかし、第一生命経済研究所の小谷みどり・副主任研究員は「家族の抱える不安や負担の問題が、在宅への壁になっている」と指摘する。

 同研究所が四十―六十九歳の九百九十人を対象に行った二〇〇一年の調査では、がんの末期になった場合、「自宅で過ごしたい」と考える人が80%に上った。しかし同時に55%が「実現は難しい」と答えている。

 その理由で圧倒的に多かったのが「家族に迷惑や手間をかけるから」。85%の人が、家族に負担をかけることへの気兼ねを見せている。

 在宅を実現するための条件でも「介護する家族の存在」「家族の理解」「家族に負担がかからないこと」といった家族の負担が上位に並び、「往診してくれる医師や看護婦がいないから」などを上回っている。

 こうした傾向に、小谷さんは懸念を示す。

 「終末期の過ごし方が患者本人ではなく家族の意向で決まることは、望ましいとはいえない。ただでさえ死を看取ることが少なくなり、病院死を当然とする考えも根強い。教育などで意識を変えていく必要がある」

□貴重な時間

 福岡県行橋市の開業医・矢津剛さんはボランティア団体「北部九州ホスピスケアの会」と連携している。

 同会に参加しているのは医療・福祉関係者や主婦など約百人。「医療だけではできない支援がある」と矢津さんはいう。

 例えば、夫が末期がんの場合。妻は家事と介護に追われ、若い夫婦だと育児も。これではなかなか家に戻れない。

 同会が引き受けているのは、買い物など簡単な家事手伝い。家人が仕事などで外出して一人になる患者の付き添いも交代で続けている。

 負担を軽減することで、患者と家族の対話も深まる。貴重な時間を有意義に過ごせる。

 「日本のホスピスは施設から出発したため、在宅の生活支援が置き去りにされてきた。高齢化が進み、独居老人や老人同士の介護が増えると、こうした支援がますます重要になる。地域で支える仕組みが必要だ」と、矢津さんは強調する。

 同会は患者を看取った遺族の支援も視野に入れ、心のケアの電話相談にも取り組むという。

病院

治療と緩和ケア並行/一般病棟でも活動始まる 主治医との連携課題に

 患者の心身の苦痛を和らげる「緩和ケアチーム」が、施設ホスピスだけでなく、一般の病院や病棟でも活動を始めている。昨春の診療報酬改定で緩和ケア診療加算が導入されたためだ。

 施設ホスピスや在宅ホスピスで行われてきた緩和ケアを、他の治療現場にどう広げていくか。施設ホスピスを持つ社会保険神戸中央病院(神戸市北区)では、チーム発足から一年たった今も手探りを続けている。

 同病院の緩和ケアチームは昨春、ホスピスの担当でもある八木安生内科部長と精神科医、専任看護師で発足。一般病棟の医師から依頼を受けた入院患者をケアしている。昨年末までに六十四人とかかわり、痛みを和らげたり、食欲低下や全身けん怠感、呼吸困難への対応、心のケアに取り組んだりしてきた。患者の半数はやがて院内のホスピスに移った。また、症状が和らいだ十五人が自宅に戻ることができた。

 「一般病棟でも治療と並行してケアすることで、患者さんの苦痛を早い段階から取り除くことができる」と八木さん。

 まだ他の診療科からの依頼が少なく、主治医との連携の取り方など課題は山積だ。医療保険で認められた緩和ケアチームを持つ病院は、今のところ県内では同病院と県立尼崎病院、赤穂市民病院の三カ所。ほかにも神戸市立中央市民病院など独自で緩和ケアチームを置いている病院もある。「私たちの活動によって、多くの人に緩和ケアの重要性を理解してもらえれば」と八木さんは話す。

公的支援
介護保険の暫定利用可

 在宅を選択した場合、がん患者はどのような公的支援を受けることができるのか。

□ニーズ多様

 六十五歳以上の高齢者なら、介護保険の対象となり、要介護度の認定に応じてサービスが利用できる。六十五歳未満でも、パーキンソン病など十五の「特定疾病」の患者は対象になる。ただし、がんは「特定疾病」には含まれていない。

 要介護度の認定は通常、申請から一カ月以内。だが、高齢者でもがんの末期は病状の進行が早く、一日も待てないという人が少なくない。その場合は〈図〉のように、認定前でもサービスの暫定利用が可能だ。

 神戸市灘区の関本クリニック(関本雅子院長)では、二〇〇一年十月の開業からこれまでに百二十四人の患者を在宅でケアした。

 介護保険を利用した人は暫定も含めて七十一人で、大半は高齢者。うち四十二人が訪問看護・介護の人的サービスだけでなく、ベッドや簡易トイレなど福祉用具の貸与を受けた。症状や家族の介護力に応じて訪問入浴や施設でのデイサービス、ショートステイを組み合わせるなど、在宅サービスへのニーズは多様だ。

□制度の谷間

 それでは、六十五歳未満で「特定疾病」を持たないがん患者は―。

 心身障害者を対象にした「支援費制度」が今年四月から始まった。障害者手帳を持っている人は、市町の窓口に申請すれば「支援費」が支給され、訪問介護などの自己負担額が軽減される。

 手帳のない人は、障害者認定を申請することになる。しかしこの制度は慢性の障害が対象で、末期がんの症状が「障害」とみなされるかどうかの明確な規定はない。手続きにも時間がかかり、介護保険のような暫定利用もできない。

 障害者手帳を持つ難病患者の在宅ケアに同制度を利用した経験のある尼崎市の桜井隆医師は「末期の患者の支援制度が年齢や疾病、障害などでころころ変わるのはおかしい。制度自体も複雑で、だれもが利用できる仕組みになっていない」と話す。

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