死者百七人、負傷者五百六十二人を出した尼崎JR脱線事故から、二十五日で丸三年を迎える。神戸新聞社が、遺族、負傷者らを対象に行ったアンケートでは、心身ともに改善傾向がうかがえる半面、事故で受けたダメージからなかなか立ち直れず、苦しむ人が今も少なくない実態が浮き彫りとなった。記述回答では、JR西日本幹部の刑事責任追及など捜査に対する要望や、命の尊さと安全の大切さを訴える思いなどがつづられた。
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負傷者に身体や精神面の状態などを聞いたところ、依然として後遺症から生活に深刻な影響が続いている人が少なくなかった。
身体面で後遺症があると答えたのは21%で、一年前より6ポイント減少。治療(リハビリ)を現在も続けているのは18%で、2ポイント減った。「完治」は51%で、10%は「けがはしなかった」と答えた。
精神的影響では、「現在も残っている」と答えたのは昨年から1ポイント減の35%。治療・カウンセリングを続けていたのは18%だった。電車乗車時の恐怖感が大半を占め、「カーブやスピードが怖い」「電車に乗ると一度は必ずパニックになる」といった症状のほか、「悪夢にうなされる」「眠りが浅い」などを訴える回答もあった。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)については、11%が「現在も症状が続いている」と答えた。「受診していないが、それらしい症状が続いている」は8%。
こうした心身の状態から、いまだに13%が仕事や家事などができないといい、27%が「仕事などに制約がある」。15%は「家族の負担が増えている」とした。いずれの割合も一年前の調査とほとんど変わっていなかった。
JR宝塚線は45%が「利用を続けている」と回答。一方、「恐怖心」を理由に乗らなかったり、乗車回数を減らしたりしている人は33%に上り、昨年より7ポイント増えた。
業務上過失致死傷容疑で捜査する兵庫県警への要望を、自由記述方式で聞いたところ、遺族の八割、負傷者の六割から回答を得た。
遺族で最も多かったのは「JR西の幹部を立件してほしい」「運転士のみの責任で終わらせてほしくない」といった内容で、半数に上った。
長男を失った五十代の男性=伊丹市=は「これだけの死者を出して、誰も罰せられない、そんなアホな社会なんてありえない! JR西は無論、国の責任も追及してほしい」などと要望。同じく長男を失った四十代の男性=三田市=は「安全装置もすでに開発されていた環境で発生した事故。経営者が安全を軽んじていた結果」とJR西の過失を指摘した。
「立件しなければ、百七人は無駄死にになる。(刑事裁判の中で)集めた多数の(捜査)資料を公開すべき」としたのは、娘を失った五十代の男性。長男を失った五十代女性=三田市=も「誰も責任を問われない、という結果になれば非常に残念で無念。裁判に持ち込んでほしい」と訴えた。
三両目で負傷した三十代の女性=伊丹市=は「企業が人を殺しても、重い罪に問われない感がある。二度とこんな事故を起こさないためにも、厳しい捜査をお願いしたい」とした。
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補償交渉では「合意した」と答えた遺族、負傷者が増えてはいるものの、遺族のほぼ三分の二、負傷者は三分の一近くが「交渉に入っていない」と回答。難航の現状があらためて明らかになった。
遺族では「合意した」が12%(六組、対前年比6ポイント増)とやや増加。14%が交渉中とした。一方で、いまだに65%(三十四組、同11ポイント減)が「交渉に入っていない」と回答。理由(複数可)は「(交渉する)気持ちになれない」が64%と最も多く、警察の捜査が終わっていない=43%▽JR西が事故原因を説明していない=40%―と続いた。
負傷者では後遺症やPTSDなどに苦しむ人たちを中心に、「交渉に入っていない」が32%(同2ポイント減)。症状が固定していない=68%▽(交渉する)気持ちになれない=35%―などを理由(複数可)に挙げた。
49%(五十一人、同6ポイント増)が「合意した」と答え、交渉中を含め、合意(提示)内容に49%(三十四人)が「満足」と答えた。
「不満」としたのは51%(三十五人)で、精神面での被害の査定=60%(二十一人)▽治療費、通院、入院期間の査定=31%(十一人)▽障害等級の査定=23%(八人)―などに不満を示した。
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事故による心理・精神的影響などが次第に薄れ、やや回復傾向もうかがえた遺族たち。その一方で、悲嘆に暮れる多くの姿も浮かび上がった。
現在の心理・精神状態を十三項目の選択式(複数回答可)で聞いたところ、一人について平均三・九項目が該当していた。事故から二年を目前にした昨年調査時の四・五項目から減少したが、事故後一年の三・七項目は上回った。
項目別では多い順に(1)すぐに涙が出る(61%)(2)事故に関係する映像や情報に動揺する(57%)(3)突然、落ち込んだり、怒りを感じたりする(45%)(4)眠れない(36%)―と続く。(2)(3)など八項目で減少し、(1)(4)など五項目が増加していた。
また、気持ちの変化を尋ねたところ、38%が「まったく変わっていない」と回答。「新たな人生に踏み出している」と答えたのは7%にとどまり、49%はその途上にあった。
こうした悲しみやショックで、医師やカウンセラーの治療を受けていたのは24%で、一年前より5ポイント減少。仕事や家事などができないのは11%と、同様に4ポイント減った。持病の悪化も含め体調を崩したと答えたのは、昨年と同じ25%だった。
事故後、知人にしてほしくなかったこととして、「頑張れという安易な励まし」「事故や故人について聞く」「補償交渉に関する質問」などが挙がった。望んだことは「そっとしておいてほしい」「普通に接して」「故人の仏壇に心から手を合わせること」などが多かった。
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事故現場のマンションについては、現地での保存を望む意見が、遺族で半数以上、負傷者は半数近くとなった。昨年は負傷者に「事故を思い出す」などとして、取り壊しを望む意見が目立っていた。
「現在のままでよい」に加え、「完全保存」「一部保存」とマンションを現場で事故の風化防止に活用すべきとした意見は、遺族で54%(対前年比8ポイント増)、負傷者は47%(同16ポイント増)に上った。
これに対し、撤去を伴う「移築保存して風化防止に活用」「慰霊碑などを建立」は遺族37%(同7ポイント増)、負傷者36%(同6ポイント減)だった。
県警が証拠として押収している事故車両は、遺族の65%、負傷者の68%が「施設などでの一般公開」を希望。「非公開で保管」を望むのは遺族13%、負傷者15%だった。遺族の5%、負傷者の3%が「解体、処分」を選んだ。
自由回答では、亡くなった家族への思いや、生活上の不安のほか、JR西や社会への要望など、さまざまな思いがつづられた。
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長男を失った五十代の男性=伊丹市=は「人の痛みを分からない人が多すぎる。『元気そうやね』などと言われると、一生懸命つらい思いを外に出さないようにしている気持ちがガラガラと崩れそうになる」と心の内を明かした。「時間がたつほど、強く息子の死を思い出すようになった」としたのは長男を失った六十代の男性=伊丹市。「JR西の幹部に『あの事故は運転士のせいで経営者は悪くない』という態度が随所に見えてきた。経営責任は最後まで追及していきたい」と記した。
父を失った女性=川西市=は「世間とわたしたちの間の時間という溝がさらに深く広がっているように感じ、疎外感を感じる」。三男を失った五十代男性=神戸市=は「なぜ、被害者の家族が加害企業を見守らないといけないのか。自身で非難を浴びないための大改革ができないのか。はがゆいより不思議」と疑問を投げ掛ける。
長男を亡くした五十代女性=川西市=は「JR西の全社員が、百六人の人生を奪い、家族の平和を壊した責任を受け止めてほしい。遺族はつらい思いを一生背負って生きていくのだから」と訴えた。
五十代の女性=三田市=は、亡くなった長男の同級生が大学を卒業、社会へと旅立ったことに触れ、「(長男が)自分の手の中から旅立ったという考えを持てれば、と思うが、三年はまだまだ短過ぎる」。夫を失った四十代の女性=宝塚市=は「いつか(夫のことを)懐かしく思えるようになると信じて、前を向いて歩いていけるのでしょうか」と問い掛けた上、「いまのわたしにはまだ無理」とした。
「三年という時間は、事故に対する怒りや恐怖心を確実に風化させてしまっている。くやしい」と書いたのは、四両目でけがをした三十代の男性=伊丹市。一両目で負傷、現在も治療が続く三十代の男性会社員=伊丹市=は「定職に就いたものの、いまだに電車に乗れず、出張などがかなわない」とする一方、「事故を言い訳にしてばかりいられない、とも感じる」。
二十代の男子学生=大阪府=は二両目で負傷、精神的な影響が残るという。「失ったものは大きいが、得られたものもたくさんある。それを大切に生きていきたい」と目標を掲げた。
遺族の心理状況では、事故二年時と比べて、悲嘆反応の表れ方が統計的には減っているが、事故一年時よりは増えている。「一年前より良くなった」というより、「二年前より悪くなった」ととらえるべきだろう。
気持ちが「まったく変わっていない」と答えた人が四割近くに上ったが、「ますます苦しくなった」というような選択肢があっても良かった。
専門家によるケアを受けている遺族は24%に上った。グリーフ(悲嘆)ケアが根付いているとは言えない社会だが、JR西日本などから情報を提供され、ケアを受けるべき人が受けられていると言える。
周囲のどんな言葉に傷ついたかという質問に、「元気そう」「まだそんなこと言ってるの」「亡くなった人も喜んでるよ」などの回答が並んでいる。どれも、グリーフケアの世界ではタブーとされているもので、まだまだ理解が広がっていないと感じた。
今後も、遺族の心理にJR西の対応が大きく影響するだろう。また、周囲の人も、時に癒やされない悲しみがあることを理解すべきであり、言葉や接し方に配慮してほしい。
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調査は3月に記入式で実施した。遺族は犠牲となった乗客106人のうち、約90人の親、配偶者、子、きょうだいが対象。転居先不明や取材拒否の意向を示すケースは対象から除いた。負傷者は過去に神戸新聞社が取材した約160人を対象とした。
遺族で回答があったのは52組76人(男性39人、女性37人)。故人と生前同居していたのは51人、別居は24人。年齢別では10代=1人▽20代=4人▽30代=6人▽40代=6人▽50代=26人▽60代=21人▽70代=9人。
負傷者は105人(男性51人、女性54人)が回答。10代=ゼロ▽20代=34人▽30代=21人▽40代=24人▽50代=10人▽60代=11人▽70代=2人。職業は会社員37%、学生12%、自営10%などだった。年齢など項目により無回答の遺族・負傷者もいた。
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(2008/04/20)
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