地元の良さ見つめ直す
丹波篠山に初雪が舞った十二月の週末。夕暮れの谷あいで、わらぶきの一軒家に明かりがともった。
料理屋「いわや」。名物ボタンなべがいろりに掛かる。十四卓は家族連れやカップルで満員。「なにわ」「和泉」「京都」…。駐車場に近畿各地の車が並ぶ。
「旬の年末から春先までほぼ満席が続くね。一日でイノシシ一頭半さばくよ」
主人、岩本喜樹(57)が迎えたこの日の客は三十六組。最後は午後九時に見送った。山深いが、車なら大阪や神戸から一時間余り。一九八八年のホロンピア博で開通した近畿舞鶴自動車道が都会との距離を縮めた。
二十年前は百万人台の丹波の観光客が九九年度、四百万人を超えた。JR複線電化も追い風だった。一方で宿泊客は九一年度の三十九万人をピークに、二十六万人まで減った。
「高速道は篠山を日帰り観光地に変えた」。創業二十五年。旅館もしていた岩本は今、料理一本。大阪や神戸の客が八割を占める。
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量的な変化は観光の質も変えた。
「人は増えたが、滞在が短い。旅行というより、黒豆や山芋など特産品を求める買い物感覚」。篠山城跡近くの中心街で手打ちそば屋を構える北川光宏(46)も変化を感じ取った一人だ。
元は衣料品店の三代目。にぎわいを増した街には戸惑った。週末、通りを歩くのは観光客ばかりだった。
「変わるなら、今しかないんじゃないか」
妻敦子(40)に相談したのは五年前の冬。出石町にある敦子の実家のそば屋で修業し、店を始めたのは翌春。衣料は両親に任せた。
今では行列もできる手打ちそば。「これも時代の流れ」と振り返る。
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南北格差の解消が課題の兵庫で、道路は便利さとともに暮らしの激変も運ぶ。
丹波の「今」を自らの「明日」に重ねるのが県北の但馬。一昨年、和田山までの播但道が通り、北近畿豊岡自動車道の整備も進む。
日帰りスキー客が増え、宿泊率は十年連続でマイナス。営業をやめる民宿も出る。一方でJRの「城崎温泉日帰りカニツアー」は年間実績六万人を超える。
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丹波を一変させ、但馬を変え始めた交通網。にぎわいを眺めながら、篠山観光協会会長で老舗の和菓子店を営む四代目、圓増亮介(42)は危機感を感じている。
「のんびりムードがなくなった」「混雑の週末は避けたい」。以前の篠山を知る得意先から声が漏れる。
にぎわいが増した半面、篠山らしさが薄れてはいないか。それは同時に、リピーターが勝負の日帰り観光でもポイントといえた。
また訪ねたいと感じてもらう仕掛け。「食べ物でも伝統工芸でも、篠山ならではの『ほんまもん』の魅力をどう育てるか。地元の良さを見つめ直す大事さを教えられた」と圓増は言う。
特産にこだわる店にステッカーを掲げた。宿泊客を取り戻そうと、名古屋まで手を伸ばしポスターを張った。今年は宿泊増を狙い、城崎や京都などとも連携した新たなプランも探るつもりだ。
地域の魅力づくり―という課題も突き付ける南北格差の解消。圓増は自分に言い聞かせるように続けた。
「高速を走ってくる車と同じ。時代の変化は猛スピードでやってくる」
(敬称略)
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