3.強みと弱み 受け継いだ変革の精神 (2004/01/08)
廃プラスチックを再利用して作った巻き芯をチェックする玉井(中央)。「少しずつ注文が増えてきた」=神戸市兵庫区、神戸ドック工業

 神戸に電気自動車のタクシー会社があった。八十年以上も前の大正十年のことだ。東出鉄工所という会社が車体を造った。事務所は、今の神戸電鉄新開地駅に近い場所にあった。真新しい車三台が並んでいた。売るつもりだったが、買い手がつかず、鉄工所がタクシー会社経営に乗り出したのだった。

 その六年前、神戸市兵庫区西出町。ある郵船会社OBが小さな町工場で見た溶接作業にくぎ付けになっていた。海外から導入され、日本では数少なかったガス溶接だ。

 工場を営んでいたのは小豆伊之助。川崎造船所(現川崎重工業)の溶接部に勤めていた。ときは第一次大戦のさなか。川崎造船所は巡洋艦「榛名」を完成させ、戦艦「伊勢」を建造していた。

 日本を代表する企業で技術を磨き、戦艦を建造するハイテクも身近にしていた小豆。町工場でも当然のように最先端の技術を使った。郵船会社OBはこの溶接技術に可能性を感じた。共同出資などで誕生したのが東出鉄工所だった。

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 「重厚長大産業」
 「技術基盤」
 「国際性」
 新産業創造研究機構(NIRO)は「兵庫県の企業に見られる強み・弱み」と題した報告書で兵庫の特性を三つのキーワードで言い表した。

 近・現代、地域経済は重厚長大産業がけん引した。下請け企業も大企業の要請にこたえ技術を高めた。海外に開かれた神戸港は進取の精神に富む気風を育てた。

 しかし「強み」は大手企業や役所を頂点とするタテ社会をも築いた。大手の求めに応じるだけだった中小は開発、市場開拓能力に欠ける「弱み」に気付き始めた。

 「企業はタテ型システムから、地域社会と結びつくヨコ型への変革が必要」とNIROは指摘。報告書の作成に際し、意見を求められた神戸商科大学教授の加藤恵正(51)は「例えば工場を開放すれば、地域との信頼も深まる。生産現場に触れることは起業の精神をはぐくむことにもつながる」と提案する。

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 神戸市兵庫区西出町に、多彩な事業展開で知られる神戸ドック工業がある。その前身は、神戸の町に電気自動車を走らせた“大正のベンチャー”東出鉄工所である。

 神戸ドック工業は最近も廃プラスチックから工業用フィルムの巻き芯(しん)を開発した。社長の玉井裕(42)は「大企業とのつながりは必要だが、依存はダメだ」と、次々に打ち出す新事業の意義を語る。

 同社にタクシー事業の資料は残っていない。ただ、電気自動車は長距離を走れず、タクシー会社は閉鎖。車はスクラップになったという。「でも…」と玉井が続けた。

 「進取と変革の精神は受け継いだ」=敬称略=

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