3.在日
(2002/11/17)
「日本の反応」に心揺れ
「拉致はありえない、と思っていた」。神戸市内に住む男性(67)は表情をゆがめた。
朝鮮半島で生まれ、生後すぐ日本へ。終戦とともに祖国に帰り、朝鮮戦争を逃れて再び日本に戻った。
民族学校で教員を務めたことがある。若いころ金日成全集を繰り返し読んだが、授業に政治を持ち込むのは嫌だった。
「金日成のことを授業で言わない、と周囲から批判された」
「北朝鮮」を心底信奉していたわけではない。ただ、差別や貧困の厳しい日本で、すさんだ生活を送る同胞は少なくなく、純粋に社会を変えたいと熱望した。
「だれもが平等で幸せな社会」を夢見た。
時折話題に上る日本人拉致は、日本と韓国のでっちあげと信じていた。
しかし。北朝鮮は唐突に拉致を認めた。
男性が言った。
「自分の青春の軌跡をすべて否定されたような気持ち。日本の人たちに『ごめんなさい』と言いたい」
◇ ◇ ◇
今、青春の真っただ中にいる徳山磨貴さん(22)。関西学院大大学院に通う在日韓国人三世だ。小学生の時に家族で日本に帰化した。が、国籍と自分のよりどころとは別だ、と考える。
「自分は韓国人。それを誇りに思う。周りも受け止めてくれた」
十月の大学祭。在日朝鮮人のプロボクサー、徳山昌守選手(28)の講演会が急きょ中止になった。混乱を心配した学生たちの判断だった。
「在日コリアンみんなを否定された気がした」
拉致事件に憤りを感じる。しかし徳山選手と拉致は関係がない。なのに差別による暴力を恐れ、だれも助けない。磨貴さんは涙がこぼれた。
語り合える在日三世の親友が大学院にいたから踏ん張れた。中止問題を考える会の発足を呼びかけると、口コミで日本人学生ら約二十五人が集まった。
「何かしたい」とそれぞれが語り、「何ができるか」を探ることになった。
「うれしかった」と磨貴さん。会合でこう話した。
「中止した学生を責めたくない。差別が日本社会にあり、ほかの人が実行委員をしても同じ判断をしたかもしれないから」
同じ在日韓国・朝鮮人でも世代や生い立ちで思いは微妙に異なる。それぞれの立場で、拉致をめぐる日本社会のありようを見つめる。
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