8月のクリスマス (2005/08/26)

 

伝えられぬ恋心切なく

 これは「始まらなかった恋」の物語である。互いにひかれ合いながら、思いを伝えることなく、永遠に離れ離れとなった二人のラブストーリー。夏の日差しの明るさの底に隠された、男の恋心、清澄な悲しみが、じんわりと胸に迫る。そして、何げない日常の輝き、「生」の素晴らしさを、男の「死」を通して、静かに語り掛けるのだ。

 韓国映画「八月のクリスマス」(ホ・ジノ監督)を日本に舞台を置き換え、再制作した。リメークがオリジナルを超えることはまれだが、本作は、ベテラン長崎俊一監督の細かな気配りと役者の好演で、その数少ない一本になり得た。そこには、より繊細な世界が築かれている。

 とはいえ、せりふや構成、演出など、全体にオリジナルに極めて忠実なつくり。原典の見事さを再証明したともいえる。オリジナルは、韓国映画に多い強引な展開や過剰な感情表現とは無縁の静かな作品で、主人公の謙虚さや不器用さなど、もともと日本人の感性にかなう要素に満ちていたことも、日本版の成功の一因だろう。

 物語は病院の場面で始まり、冒頭から主人公の「死」を暗示している。だが、全体を覆うトーンは、深刻さや重苦しさよりも、むしろ、ほのぼのとした温かさだ。いつも笑顔を絶やさない主人公・寿俊の穏やかな人間性、家族との触れ合いや気心の知れた幼なじみとの友情、ヒロイン・由紀子とのまるで高校生のような“デート”…。平穏な彼の日常の細部を、カメラは慈しむようにとらえる。

 「月とキャベツ」以来、八年ぶりの映画主演となる歌手・山崎まさよしが、悲しみを胸奥深くに秘めた平凡な青年の、強さ、弱さを自然体で演じる。「もう恋することはないだろう」と決めていた青年に、不意に訪れた出会い。病ゆえ伝えられぬ思いを、青年は笑顔で隠し通す。その苦悩の深さを強調することなく、さらりと描き、観客の想像力に委ねる演出は秀逸だ。

 ヒロイン役の関めぐみも、無鉄砲にも見える無邪気さや初々しさを振りまき、実に魅力的。寿俊が愛した「雪の情景」は、彼のつらく悲しい心象風景でもあるが、彼にとって、由紀子は「八月の太陽」のようにまぶしくも美しい存在だったのだろう。九月、シネカノン神戸などで公開。(堀井正純)

〈ストーリー〉 北陸の地方都市。父の跡を継ぎ、町の小さな写真館を営む寿俊(山崎まさよし)は、家族や幼なじみの友らと、平穏な毎日を送っていたが、彼にはある秘密があった。それは、不治の病で余命いくばくもないということ。運命を静かに受け入れ、淡々と生きる寿俊だったが、ある日、店に飛び込んできた小学校の臨時教員・由紀子(関めぐみ)に心ひかれ始める。

 写真館でのやりとり、スクーターで町を走ったこと、遊園地でのデート…、ゆっくりと心の距離を縮めていく二人だが、どちらも胸の思いを打ち明けないまま時は過ぎ、やがて由紀子の転勤が決まって…。長崎俊一監督。一時間四十三分。

 

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