運命じゃない人  (2005/09/16)

 

パズルのような緻密な構成

 最近の邦画のヒット作にはいくつかのセオリーがある。人気漫画、小説の原作もの▽スター俳優が主演▽テレビ局の主導や協力による製作・宣伝体制―などだ。が、そうして作られた話題作の多くは、国内ではヒットしても、原作もスターも知られていない海外映画祭などでは勝負にならない、との批判がある。

 本作はその「方程式」からほとんど外れる。メーンキャスト四人はみな無名の若手。オリジナル脚本を自ら手掛けた内田けんじ監督も、これが長編デビューで無論、無名。二千五百万円の低予算で、撮影期間も二週間と恵まれた製作環境といえないが、内容は実に素晴らしく、カンヌ映画祭で見事フランス作家協会賞(脚本賞)など四冠に輝いた。

 何より緻(ち)密(みつ)に計算されたその構成、脚本の見事なこと。映画は脚本が第一という基本を再認識させられた。たった一夜の小さな物語だが、何人かの男女の人生、日常が鮮やかに交差し、そこに込められたユーモア、才気に思わずひざを打つ。間違いなく今年の邦画ベスト3に入る快作だ。 「知的」で「軽妙」。最初の三十分は、恋に不器用なまじめな男女二人のほほえましいラブストーリーかと思いきや。以降はスリリングな犯罪サスペンス▽だましだまされの詐欺ゲーム▽現代やくざの実態をユーモラスにみつめた喜劇―と様相を変えてゆく。暴力団の大金に絡み、女詐欺師や探偵、組長らが入り乱れ、予想外の展開をみせる。

 物語の視点が、典型的な「いい人」の会社員・宮田から、彼の元同級生の探偵・神田、暴力団の組長・浅井へと移るに従い、平和で平凡な、宮田の夜の出来事の背後で、どんな珍事、事件が起こっていたかが明らかになってゆく。

 時間軸を巧みに入れ替え、同じシーンを数度繰り返すパズルのような構成で、見る人の視点が変わると同じ場面の意味が全く変わる、その面白さ! 観客だけに事件の全貌(ぜんぼう)が見え、意外な人間関係やすれ違い、それぞれのたくらみ、真意を理解でき、爆笑したり、にんまりしたり。

 宮田のノーテンキなほどの無垢(むく)さ、純粋さが最高で、山下規介演じる組長・浅井の人間くささなど、人物造形も魅力的。人間の裏も表も見つめつつ、優しさ、温かさを忘れない内田監督の視線に好感を抱いた。大阪・梅田ガーデンシネマで公開中。(堀井正純)

〈ストーリー〉人を疑うことを知らない、気弱でまじめな「いい人」宮田(中村靖日)は半年前、恋人あゆみ(板谷由夏)に別れを告げられた。友人の私立探偵・神田(山中聡)は、ある夜、突然、彼を夕食に誘う。神田は、店で偶然隣り合わせた女性・真紀(霧島れいか)をナンパするが、途中で席を外したまま戻らない。
 真紀もまた、婚約者の浮気を知って、失意の底に沈んでいることを知った宮田は、帰る家のない彼女をその夜、自分のマンションに泊めることにしたが、意外な人物の来訪に、真紀は部屋を飛び出して…。一方、そのころ神田は、とんでもないトラブルに巻き込まれ、苦境に陥っていた。一時間三十八分。

 

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