シンデレラマン (2005/09/30)

 

どん底からの復活劇

 社会を暗雲が覆う絶望の時代、人々は「ヒーロー」を、「希望の物語」を求めるのだろうか。これは大恐慌という過酷な時代に、どん底からはい上がった米国の実在のボクサー、ジム・ブラドックの物語。「負け犬」と思われた男が懸命に可能性を追い、まさかの栄冠を手にする。愛する家族のため。そのシンデレラストーリーに当時のアメリカ大衆は酔った。長引く不況下を生きる現代日本人に、映画はどう響くだろうか。

 「ビューティフル・マインド」などのベテラン、ロン・ハワード監督は、愚直ともいえるような正攻法の演出を積み重ね、きまじめなタフガイの復活劇を描く。R・クロウが、心優しき家庭人を演じるやや意外な配役だが、その不器用にもみえる生きざまは彼の武骨さによく似合っていた。

 困窮の中、まっすぐな生き方、家族への愛は捨てない。生活保護を受け、食糧配給にも並ぶが、貧しさのあまり、息子を祖父母の元へ預けようとする妻に、家族が離れてはいけないと強く反対。家族を守るため、自尊心を捨て、ボクシング界のかつての仲間や幹部連中を訪ね、頭を下げて、金を無心までする。

 そして訪れた再起のチャンス。ピークを過ぎたジムに勝ち目はないと思われていたが、奇跡的な勝利をつかみ快進撃。ついには、世界タイトルをかけて無敵のチャンプに挑む。できすぎた話のようだが、これは実話。庶民が、そのアメリカンドリームに熱狂したのも無理はない。

 迫力あるボクシングシーンが圧巻だ。うなるパンチ、肉をたたく打撃音、飛び散る汗や血。痛みが、画面から見る者にも伝わる。とりわけ、最後の世界タイトル戦は、力と力のぶつかり合い、まさに殴り合いで、善良な家庭人がここでは決死の戦士の顔となっている。これまでの試合で二人も相手を殺しているチャンプはまるで野獣のよう。ピンチのジムを支えるのが家族への愛なのだ。

 父を尊敬する子らの純粋さ。夫の負傷を心配し、ボクシングには反対してきた妻の祈るような思い。展開に驚きは少ないが、うたい上げられる家族愛はやはり感動的だ。

 個人的には、思わず戦う本能をのぞかせてしまう、リング上のジムにより魅力を感じた。華麗さとは無縁の鈍重ともいえる前進。耐えに耐える精神力。苦痛にゆがむ顔。痛みの中で「男」は輝き、栄光をつかみ取る。(堀井正純)

〈ストーリー〉 前途有望な若きボクサー、ジム・ブラドック(ラッセル・クロウ)は、愛する妻メイ(レネー・ゼルウィガー)や三人の子供に囲まれ幸せの絶頂にあった。だが、一九二九年、米国を襲った大恐慌で財産のほとんどを失い、右手の負傷で、選手としても転落が始まる。
 四年後、無惨な試合内容に、ボクサーのライセンスまで奪われたジムは、日雇い労働者として、過酷な肉体労働にいそしむが暮らしは切迫。電気やガスも止められてしまう。そんな彼にある日、昔のマネージャー、ジョー(ポール・ジアマッティ)が、勝つ見込みのないボクシングの試合の話を持ってくるが…。米国映画。二時間二十四分。

 

HOME ・ 映画TOP

Copyright(C) 2005 The Kobe Shimbun All Rights Reserved