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ユダヤ人の悲劇に焦点
シェークスピアの原作に登場する高利貸しシャイロックは、「冷酷」「強欲」の代名詞的存在。古典的な演出によるこの物語は、借金の担保の人肉一ポンドをめぐる「人肉裁判」で、機知に富むヒロインが悪人をやりこめる、勧善懲悪の一種の「とんち話」となる。が、名優アル・パチーノが演じるシャイロックは、差別され、人間扱いされない者の悲しみと怒りを全身から漂わせ、当時のユダヤ人迫害を再現する。映画は複雑で苦悩に満ちた世界を描くのだ。
貿易都市として栄華を極めた十六世紀末のイタリア・ベネチア(ヴェニス)。土地所有を禁じられたユダヤ人らは、ゲットーと呼ばれるエリアに隔離され、金貸しを営む。だが、金を貸し利子を得る行為は、イエスの教えに反するとみなされ、狂信的なキリスト教徒から暴行を受けることも珍しくなかった。
シャイロックは妻を亡くし、さらに愛する娘にも出奔され、悲嘆と怒りに暮れる孤独な老人。ユダヤ人ゆえに受けた数々の恥辱への報復に、奇妙な「契約」を結び、違約金代わりに人肉一ポンドを要求する。その暗い情念には説得力がある。
友人バッサーニオ(ジョセフ・ファインズ)がシャイロックから借りた大金の保証人となった貿易商アントニオ(ジェレミー・アイアンズ)。彼もまた孤独を抱えている。監督は彼が同性愛者だとほのめかす。友への愛と絶望ゆえ、彼は理不尽に殺されかけても、半ばあきらめの顔をみせるのだ。
つまり、ここにあるのは、抑圧された少数派である異教徒や同性愛者らの悲哀と苦悩である。陰影深い重厚な映像が、人の心の闇を際立てて秀逸だ。ただ、ユダヤ差別に焦点を当てた演出なら、茶番とも思えるラストの指輪をめぐるエピソードは削ってしまうべきではなかったか?
米・伊・ルクセンブルク・英合作。二時間十分。109シネマズHAT神戸で公開中。
(堀井正純)
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