ベルサイユの子 (2009/07/10)

フランスの陰温かく描く

 あなたは知っているだろうか。世界遺産「ベルサイユ宮殿」のはずれの森に、たくさんのホームレスが住んでいることを…。華やかなイメージのフランスでは現在、その陰で90万人が当座しのぎの避難所暮らしをしているという。本作は失業やホームレス問題などを背景に、家族のあり方や人間の尊厳を描く。

  社会になじめない男ダミアン。森のはずれのバラック小屋でひっそりと暮らすある日、若い母親ニーナと5歳の息子エンゾが道に迷ってやって来る。母子もホームレスで、毎日ごみ箱をあさりながらその日の糧を得る。久しぶりの客に喜び、トウモロコシを分け与えてもてなす。ニーナとは肌を重ねる関係になるが、朝起きると子どもが置き去りになっていた。ダミアンは、あてもなく小屋を出ていくエンゾを引き留める。一緒に暮らすうちに父性に目覚め始め、エンゾを学校に行かせようと考える。それは自身も変わり、共に社会復帰する決意だった―。

  セリフをぎりぎりまで切り詰め、対照的な映像を何度も挟み込む手法が効果的。美しいベルサイユ庭園とみすぼらしいバラック小屋。芝生でボールを追いかける元気な子どもと、森の中で野たれ死んでしまう若者…。フランスのおかれている「今」がストレートに胸に迫ってくる。

  一方、エンゾがダミアンを見つめる「瞳」と、ダミアンがエンゾを包む大きな「手」が幾度も映し出される。「希望」と「きずな」が自然に感じられる。今のフランスに「明るい光」をともしたいというメッセージが伝わる。

  強い意志に満ちた映像の前に言葉はいらない。本作が長編映画デビューとなるピエール・ショレール監督の手腕は見事。

  ダミアン役のギョーム・ドパルデューは「ポーラX」で人気が出たフランスの俳優。惜しくも昨年肺炎のため37歳の若さで亡くなったが、遺作となった本作は彼の代表作になるだろう。11日から神戸アートビレッジセンターで公開。

(シネマパーソナリティー・津田なおみ)

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