ゼロの焦点 (2009/11/13)

「戦後の闇」が生んだ悲劇

 原作の「ゼロの焦点」は推理小説家の松本清張の名を不動のものにした「点と線」「砂の器」と並ぶ代表作。本作は、今年迎えた生誕100年を記念して企画された。

 昭和32年、禎子(広末涼子)は鵜原憲一(西島秀俊)と見合い結婚。結婚7日目、夫は赴任先の金沢に立ったまま消息を絶つところから、物語は動き始める。

 憲一の足跡をたどる禎子は、得意先であった室田耐火煉瓦へ。日本初の女性市長誕生を目指す選挙戦を応援する室田社長夫人・佐知子(中谷美紀)と、どこか薄幸な影がつきまとう受付嬢の田沼久子(木村多江)と出会う。

 その後、禎子の夫捜しを手伝う憲一の義兄が殺され、禎子は殺人事件に巻き込まれていく。接するはずのなかった3人の出会いが事件を加速させる。果たして憲一は単なる失踪(しっそう)なのか―。

 見どころは、3人の女性が背負う運命を演じ切った女優陣の力量と監督の執念による映像美だ。

 事件の渦中の人となった禎子は、何一つ知らなかった夫の過去をたどることで妻になっていく。広末は、孤独と不安に闘いながら真相にたどりつく思慮深き女性を見事に表現した。

 中谷は、ガラスの破片で傷だらけになった顔を公然とさらし、立ちつくす狂気と名誉にしがみつく高慢を体現してみせ、その揺るぎない演技には目を見張った。そして、運命に翻弄(ほんろう)されるしかない女性の悲しみを、木村はカメラを正面に見据え延々と伝えきった。

 監督は、「眉山―びざん―」で第31回日本アカデミー賞優秀作品賞・監督賞をうけた犬童一心。昭和30年代の風景を全国に求め、ついには韓国ロケまで。北陸の暗く低い空、駅の喧騒(けんそう)、復興しつつある地方の町並みなど。妥協を許さない時代の再現が、殺人にリアリティーを与えている。

 見終えて「これはありえるなあ…」と犯人に感情移入する心理が芽生えた。そこにはやるせない「昭和の闇」があった。清張ならではの重厚さにはうなるしかない。

 2時間11分。14日からOSシネマズミント神戸などで公開。

(窪田政男)

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