大停電の夜に (2005/11/25)

 

闇が語らせる思い

 欧米で聖夜の物語の定番といえば、英国の文豪ディケンズ作「クリスマス・キャロル」。強欲な金貸しの老人が精霊に導かれ、過去を悔い改めて「再生」する。本作は、クリスマスイブに東京を見舞った「大停電」というトラブルの陰で、十二人の男女が織り成す群像ドラマだ。闇に包まれた夜を過ごし、夜明けを迎えるころ、それぞれがみな過去と向き合い、少し成長して「再出発」する点で、「クリスマス・キャロル」に通じるものがある。

 大規模停電で、東京は交通まひ。闇の中、人生の分岐点に立つ人々が立ち止まり、それぞれの思いを確認し、あるいは考え直す。隠していたそれぞれの思いを闇が語らせ、小さな“奇跡”を起こす。

 不倫相手との別れを決意したOL(井川遥)は、停電でホテルのエレベーターに閉じ込められる。その恋の相手の会社員(田口トモロヲ)は、死んだと思い込んでいた母がまだ生きていることを、入院中の父から聞く。その妻(原田知世)は離婚届を準備し、夫の帰りを待っていた。さびれたジャズバーのマスター(豊川悦司)は過去の恋が忘れられず、「今夜で店を閉めるから来てほしい」と元恋人に連絡する。

 人生の不思議、苦さ、切なさが詰まったいくつもの挿話を、同時進行で交差させ、さばく脚本、演出が鮮やかだ。各エピソードの突っ込みの浅さなどは気になるが、ろうそくの温かな光を生かしたロマンチックな映像、しゃれっ気のあるセリフ、ジャズの名曲などが効果的で、知的で都会的な「大人のドラマ」に仕上がった。

 文明の利器が力を失い、人と人が直接向き合って、絆(きずな)とは、人間同士のコミュニケーションとは何か、と考えさせもする。ファンタジックで美しい、心温まる佳作が生まれた。

 この先、これは日本人にとって、クリスマスを彩る定番の一つとなり得るだろうか。

 源孝志監督。二時間十二分。公開中。

(堀井正純)

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