疾走 (2006/01/13)

 

心に響く痛切な青春

 差別や蔑視(べつし)、心の病、少年犯罪と家庭崩壊―。物語は死や暴力、絶望と孤独に彩られ、重苦しくもハード。その痛々しさに、思わず目を背けたくさえなる。少年の心の軌跡をたどりつつ、現代社会のゆがみや人間の負の部分を見据え、「まがまがしい」といっていいような独特の空気が満ちる。だが、その暗く陰鬱(いんうつ)な世界を貫くのは、「誰かとつながっていたい」という「祈り」にも似た少年の思い、願いだ。宗教的ともいえる荘重ささえたたえ、心揺さぶる青春映画の傑作である。

 直木賞作家・重松清の同名小説を俊英・SABU監督が映画化。脚本も手掛けた。舞台は岡山の海辺の町。海を干拓してできた殺風景な新興地「沖」の人々は、古くからある「浜」の住民らから、いわれなく差別されている。荒涼たる「沖」の風景は実に印象深く、神話の人物たちが生きる「荒野」を思わせもする。

 主人公は、「浜」で育った中学生シュウジ(手越祐也)。優秀な兄シュウイチ(柄本佑)とともに幸福な家庭に育ったが、兄が起こしたある事件を機に家族は離散。悲劇的、破滅的な運命へ向かって“疾走”していく。

 これは、抱え切れぬ重い十字架を負った人々の群像劇でもある。シュウジが恋心を抱く少女エリ(韓英恵)は、一家心中で父母を失い、「沖」に住む親類の元に身を寄せる。エリとシュウジが通う教会の神父(豊川悦司)もまた実弟がらみの暗い過去を持つ。そしてシュウジは、兄の罪ゆえに「犯罪者の家族」と級友らから差別、虐待される。

 「どうして、人間は死ぬの」―。幼いころ、シュウジは親に無邪気に尋ねた。少年となった彼に、神父は語る。「人間は必ず死にます。それは宿命です。でもいつ、どのように死ぬのか。それは人それぞれ。それが運命です」。絵に描いたような不幸の連鎖の中、運命は変えられるのか。少年は走る。傷ついた者同士が求め合い、つながる。そのふれあいが、切なくも美しい。

 二時間五分。十四日公開。

(堀井正純)

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