歓びを歌にのせて (2006/01/20)

 

心を癒やす音楽の力

 「音楽」には、とりわけ「歌」には、人間の原初的な感情を刺激するパワーがあるのではないか。胸の奥深くから、自然に沸き上がる「歌声」は人々の心をつなぎ、揺さぶる。聞く者の悲しみを癒やして喜びを高め、歌い手も自らを癒やし、変わってゆく。

 スウェーデンの実力派、ケイ・ポラックが監督・脚本を手掛けた「歓(よろこ)びを歌にのせて」は、そんな音楽の力にあらためて気付かせてくれる。昨年のフランス映画「コーラス」は合唱を題材に、少年らの成長を描いたが、本作もまた村のコーラス隊と天才指揮者との交流を通じ、自らの殻を破る人々の姿、歌声が起こす小さな“奇跡”を描く。

 世界的成功を収め、八年先までもスケジュールが詰まった人気指揮者ダニエル(ミカエル・ニュクビスト)は、ハードな日々がたたり、舞台で卒倒。休養のため、幼年期を過ごしたスウェーデンの小さな村に隠棲(いんせい)する。音楽のことは忘れるつもりだったが、ある日、聖歌隊の指導を頼まれ…。

 日本には、異界から姿を変えた神や聖者が村を訪れるという「稀人(まれびと)信仰」があるが、閉鎖的な共同体にやってくる稀人とは大抵、静かな村に波紋を起こす「よそ者」である。ダニエルもまた、何十年も一緒に暮らす村人にとっての異質な稀人だ。

 村人の大半は熱心なクリスチャンで、きまじめな牧師を敬愛する。だが、ダニエルは歌を通じ、人々が胸に抱えた悩みや苦しみを吐き出させ、図らずも、教会の権威まで失墜させてしまう。

 人間の描き方が、やや図式的な感もあるが、教会の偽善性に気付いてしまう牧師の妻や長年、同級生にいじめられ続けた男の反撃など、人々の変化は面白い。

 ラストシーン。コンクール会場に沸き上がる「歌声」は実に感動的だ。が、それ以上に印象深いのは、中盤の一場面。夫の暴力に耐え続けた人妻ガブリエラの歌声と彼女の泣き笑いの表情だ。涙にぬれた笑顔の中に、人生の真実が光っていた。

 二時間十二分。シネカノン神戸で公開中。

(堀井正純)

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