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母と娘の確執と愛
女たちの愛と性を描いてきたスペインのペドロ・アルモドバル監督が新作「ボルベール〈帰郷〉」では一転、身近な人間の死を扱っている。といっても、安っぽいヒューマニズムを盛っただけの映画ではなく、毒気たっぷりの描写はこれまで通り。母と娘の間の葛(かっ)藤(とう)も織り交ぜ、見ごたえある内容に仕上げた。
ライムンダ(ペネロペ・クルス)は失業中の夫に代わって懸命に働き、十五歳の一人娘パウラ(ヨアンナ・コバ)を育てている。ある夜パウラが、性関係を迫ってきた父を刺殺。娘を守るためライムンダは空き家になっていたレストランの冷凍庫に夫の死体を隠す。
同じ夜に伯母も亡くなり、その葬儀に赴いたライムンダの姉ソーレ(ロラ・ドゥエニャス)が妙なうわさを耳にする。伯母の家に、火事で死んだはずの母の幽霊が現れるというのだ。
冒頭、墓掃除をしている村の女たちに、強い風が吹きつける。何の説明もないが、この風がさまざまな形で重要な役割を果たす。
ライムンダが母の生存に気づく場面。ソーレの家に移った母が発した風、つまりおならのにおいが、そのきっかけとなる。かつて母に教わったタンゴの名曲「ボルベール」をライムンダが歌うと、切ない歌声が風に乗って母のもとへ。娘と母は、風に仲介されて許し合う。これまでも独特の感性で「母性」を描いてきた監督の皮肉とユーモアが効いている。
ハリウッドでも活躍中のペネロペ・クルス演じる芯(しん)の強い“スペインの肝っ玉母さん”がいい。気が強く、気に入らない相手には早口でまくし立てる。愛する者を守るためにはなりふり構わない。自身のつらい過去を吐露し、母との確執を乗り越える場面などでは、強さともろさを絶妙のバランスで演じ分け、女優としての成長を感じた。
二時間。シネモザイクなどで公開中。
(片岡達美)
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