| 現代に通じる家族像
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| ▼うちだ・たつる 1950年、東京都生まれ。東京都立大助手を経て神戸女学院大学教授。専門のフランス現代思想のほか武道論、映画論などを展開。著書に「私家版・ユダヤ文化論」、訳書「観念に到来する神について」(E・レヴィナス著)など。インターネットのブログ「内田樹の研究室」(http://blog.tatsuru.com/)も人気。 |
仏文科を卒業し、フランス思想を仕事にしているが、好きな監督は日本的情緒≠フ小津安二郎。「自分のオールタイム・ベストワン」と言い切るのが、この作品だ。
二十代を通じ、計算し尽くされた小津作品に魅了され、片っ端から名画座で見て回ったが、「自分の中に決定的に刻まれた」のは一九八七年だった。
仕事と旅行を兼ねた一カ月間のフランス滞在を終えて帰国。「フランスでは常に自己主張していないと暮らしていけず、そんな毎日に疲れ果てていた」
そんなとき、家で手に取ったのが「秋刀魚の味」のビデオだった。
妻と死別した平山周平(笠智衆)は長女路子(岩下志麻)、二男和夫(三上真一郎)と暮らす。中学時代のクラス会で、早くに妻を亡くしたという恩師(東野英治郎)から、娘(杉村春子)が自分の世話をするうちに婚期を逸し、老け込んでいると聞かされる。にわかに路子のことが心配になり、「お前、お嫁に行かないか」と言い出す―。
「父親が中心で、親の言うことに従う子どもたち。ああ、これが日本の家族だ、と思った。見ているうちに、異国での戦闘を終えて武装解除していくような感覚になった」
二年後の八九年に離婚し、一人で娘を育てた。「周平に自分の姿を重ね、作品に対する思いはいっそう強くなった」
小津の後期作品のほとんどは同工異曲で、娘の結婚話が中心だ。それ以外に大きな起伏はないが、結婚し、独立している長男幸一(佐田啓二)から冷蔵庫の購入費五万円を無心され、周平が即座にOKする場面が印象に残っている。
自身は二男。何かあるたびに長男を怒ったり、ほめたりする父親が、自分には関心が薄いように感じていた。
「周平も、男手一つで育てた三人の子どもに平等であろうと努めている。でも、長男に対するときには『甘やかしたい』という気持ちが表れ、差がつく」
小津映画の主人公は、都市生活を営むサラリーマンだ。「高度成長期の家族像をいち早く描くとともに、それが崩壊しかかるギリギリまで見せた。その様子は現代の家族にも通じる」
だが、映画では、親子の分裂の瀬戸際で子どもたちが抑制的、理性的に振る舞い、危機は回避される。
「小津の家族はあくまで理想。そう分かっていても、いや、だからこそ、心に充足感を与えてくれるのかもしれません」
=おわり=
| 秋刀魚の味(113分) 日本映画の三巨匠の一人、小津安二郎監督最後の作品。共同脚本の野田高梧、撮影の厚田雄春ら常連による質の高い仕上がり。娘の結婚を気にする元海軍艦長の会社重役を、小津作品ではおなじみの笠智衆が名演。「軍艦マーチ」が流れるバーで、海軍時代の部下加東大介、ママの岸田今日子と三人が敬礼を交わす場面も記憶に残る。 |
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