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| 5. 見えないサイン | ||||
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頑張ったけど 病気に負けた 看護師の可南子(41)=仮名=は、うつ病患者が「死」を口にすることは知っていた。が、「家族思いの夫にかぎって…」と思い込んでいただけに、篤司=仮名=が漏らした言葉に動揺した。 「もう死にたい」。そう聞いたとき、可南子は「死にたいって言う人ほど、死ねないもんなんよ」と受け流すポーズをとるのがやっとだった。 その後も対処の仕方を考え抜いたが、見つからない。「どうしたらいいの」。心の中で繰り返しながら、気付けば、夫の主治医を訪ねていた。
兵庫県内の被災地自治体の中堅職員だった篤司が緊急入院したのは昨年一月。うつ病による記憶力低下で仕事ははかどらず、通勤電車に乗ることさえつらくなっていた。 震災後の新設ポストに三十代後半で抜てきされながら、うつ病と診断されたのが一昨年春。願い出て業務の軽い職場に移ったが、体調は悪化。几帳面な性格が「職場に迷惑をかけられない」という思いを募らせ、疲労は限界に達していた。 入院後、篤司は日記を付けた。飲んだ薬、家族のこと、心の状態…。仕事の夢もよく見たが、自分を見つめる時間を持てたことで、好きな本や映画に目を向けるようになった。二カ月後には復職できるまで回復した。 「よかった」。可南子は何年ぶりかの安堵感に包まれた。しかし、それもつかの間。「仕事量を六割程度に」という医師の指示に反し、仕事に戻った篤司は休日出勤や残業を重ね始めた。 容態は後戻り。そして昨年五月、いったん帰宅した篤司は「出かけてくる」と言って家を出たまま、一週間後、近くの山中で遺体で発見された。
過重な仕事やストレスが原因の「過労自殺」。不況下の厳しいノルマ、リストラによる業務増などで状況はさらに深刻化している。多くはうつ病などの精神障害を伴う。 可南子は夫もその犠牲者だと考え、今、公務災害の認定を求めている。 一方で、夫の自殺から一年以上たっても、自責の念が消えない。医療現場に身を置く自分が、身近な人の死へのサインを見逃してしまったのではないか―。夫と向き合ったとき、もう少し何かできたのではないか―。 小学生の二人の子どもは、父が亡くなった本当の理由をまだ知らない。 「公務災害と認められたそのとき、真実を伝えるつもり。『お父さんは一生懸命闘ったけれど、病気に負けちゃったんよ』と教えてやりたい」。夫の遺影の前で、可南子はそう話した。 (敬称略)
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