(2003/08/03)
6.砂の城
 

苦境で痛感「カネは麻薬」

 「会社をどう存続させるかというより、いかにカネを借りるか。いつのころからか、それしか頭になくなっていました」

 決済日が迫ると、無意識に体が震えた。すがる思いで取引先を回り、入金を頼んだ。「うちも苦しいんや。もう少し待って」。そう言われると、どうしても押せない自分。一社、二社…と消費者金融からの借金が膨らんでいった。

 喜一(51)=仮名=は昨年、十七年続けた会社をたたんだ。負債一億円の自己破産だった。「命(保険金)で返すしかない」と思い詰めたこともあった。それでも、寄り添ってくれた家族のことを考えると、一線は越えられなかった。

◇       ◇       ◇

 三十三歳のとき、大阪・船場で婦人服製造・卸会社を興した。商工会議所から優良企業表彰を受けたこともあった。

 風向きが変わったのは二〇〇〇年。取引先小売店の不振に加え、翌〇一年のスーパー「マイカル」の破たんが痛かった。

 「まるで『砂の城』。あっけなかった」

 約二百社あった得意先は八十社に減り、年三億円の売り上げは三分の一に。追加融資を引き出す担保はなく、金を貸す金融機関はなかった。それでも「ここを乗り切れば…」と思い込んでいた。

 支払いの日、顧客からの入金がない時は、母の年金や息子の給料も充てた。親類、知人…思い付く所すべてから借りた。すでに三千万円の借金があったが、自らを見つめる理性はなかった。

 消費者金融に足を運んだのは昨年末。人目をしのんで、会社から離れた店を選んだ。ものの一時間で六十万円を手にできた。数日後、別の二社からも五十万円ずつ。借り入れ枠はいっぱいとなり、四社目では十万円しか借りられなかった。「この先はヤミ金しかない」

 ため息をついて事務所に戻った喜一に、妻が言った。「もう十分頑張ったやないの。これ以上周りに迷惑かけられへんでしょ」。張り詰めていた気持ちが緩み、破産を決めた。

◇       ◇       ◇

 年三万人以上が自ら命を絶つ。未遂はその十倍に上るとの推計もある。

 喜一は今年五月、自殺防止の電話相談を行う特定非営利活動法人(NPO法人)「国際ビフレンダーズ大阪・自殺防止センター」のボランティア相談員に応募した。

 死と向きあうほど苦境にあえいだ自分だからこそ、救える人がいるのではないか。その時、ひと言伝えたいことがある。

 「カネは借りたらスッとするけど、またすぐに借りることを考える。カネは麻薬ですよ」

(敬称略)
 自殺防止の電話相談 兵庫には「神戸いのちの電話」TEL078・371・4343、「はりまいのちの電話」TEL0792・22・4343があり、研修を受けた相談員が応対。国際ビフレンダーズ大阪TEL06・6251・4343は個人面談も。

) ( 6 ) ( )   この連載のTOP 社会TOP HOME

Copyright(C) 2003 The Kobe Shimbun All Rights Reserved