尼崎JR脱線・聴取会公述要旨

2007/02/02

 尼崎JR脱線事故で、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(事故調委)が一日、「事実関係報告書案」への意見を聞くため、意見聴取会を開催した。出席した公述人は十人、参考人三人。それぞれの発言要旨は次の通り。


<公述人の発言要旨>

標準的運転で定時運行可能
丸尾 和明氏
(JR西日本副社長)

 事故を起こした者に対する再教育、いわゆる日勤教育は、大阪高裁の判決でも有用性が認められている。本件運転士は事実に反する報告があったことなどから、職務に対する意識付けが必要と判断し、再教育を行った。再教育について「精神論的」と指摘しているが、意識面の改善に重要性・有用性が認められており、本件も職責に対する自覚を促し、事故防止に対する意識を向上させることが必要だと判断して実施した。

 ATS―Pについては列車本数、利用状況、施工件数などを勘案し、計画的に整備している。福知山線もこの方針に基づき、整備に着手した。当該工区は認定事業者として初の工事であり、慎重に実施したため、施工の時期を見直した。

 さらにATS―Pは、鉄道の常識として、運転士が曲線の制限速度を大幅に超えることはないものと考えていた。速度超過して転覆する事故の経験もなく、考えたこともなかった。

 曲線で速度超過すれば脱線がありうることは理解していたが、具体的な危険事項としては認識していなかった。曲線での速度超過対策を行う必要があるとは認識していなかった。

 運行計画だが、基準運転時分には若干の余裕が含まれている。定時運行はできる。「余裕時分全廃」のことが書かれているが、京都、神戸線の普通電車の余裕時分見直しを象徴的に表現したもの。余裕時分が全廃されたわけではない。

 宝塚―尼崎間に当該列車に余裕時分はないが、なくても、標準的な運転を行うことで定時運行が可能だ。


組織的欠陥が要因だと確信
山中 秀夫氏
(遺族)

 私はJR西日本の役職員七十人と、事故が起こった人的要因について(個人的に)意見交換を続けてきた。その結果、これから述べるJR西の組織的欠陥が事故につながったと確信している。

 事故原因の一つ目は、車掌が「車掌スイッチ(緊急ブレーキ)」を操作しなかったことだ。事故防止の最後のとりでだったが、車掌らは教育を受けておらず、それを使う判断基準を習得していなかった。

 人間は一人では間違いを起こす弱い動物であり、それを補うのが、組織の仕組みによる「組作業」だ。私が従事する土木工事業界では「一人作業禁止、組作業の励行」を基本に、作業基準が定められている。

 過去の事故を分析すると、一人作業時の事故比率が高い。JR西の運転士と車掌は業務連絡以外では普通、言葉も交わさないという。JR西の作業基準に「組作業」の観念がないのは信じられない。

 伊丹駅でのオーバーラン後、車掌はそれを司令員に報告することより、「組作業」の原点である、運転士の心理状況の把握や運転状況の異常に気をかけるべきだった。安全を優先する組織であれば当然のことが、JR西にはできていない。

 また余裕のないダイヤでの定時運行を運転士に強要したことで、運転士の精神的負担が増したことも、原因の二つ目にあげられる。

 JR西は事故直前、実際の運転がダイヤ通りに行われているかの調査をしていたと聞いている。一分少しの遅れでも、回復運転に運転士を追い込んだJR西の組織的行為は、パワーハラスメントにも該当する。


真実摘み取る地道な作業を
小椋 聡氏
(負傷者)

 私は負傷者に、事故当時のことを記録した手記の執筆を呼びかけてきた。手記からは「二両目から運転手が見えた。慌てた様子もなく、前を向いていた」「事故後、携帯電話を片手に運転手を捜す車掌がいた」などの証言が得られた。

 また、乗客の事故当時の乗車位置を知るため、負傷者や救助者、目撃者らによる情報交換会を開いた。交換会の情報による位置図と、事故調委の事実関係報告書案の位置図には違いがあった。二両目で犠牲になった高校生二人は、報告書案の位置図では空欄となっており、当事者への聞き取りの重要性を示している。

 報告書案には負傷者十二人の証言が載っていた。私は約百人の負傷者と連絡を取ったが、事故調委の調査を受けた話は聞いていないし、私も調査を受けていない。さらに、報告書案には乗客が事故後にどこに飛ばされたかという事実の記載もなかった。当事者への聞き取りが不十分ではないだろうか。今後、事故調委は生き証人である負傷者への聞き取りを徹底してほしい。被害者は時間とともに心境に変化がある。長い目で被害者にかかわり、真実を摘み取る地道な作業を続けてほしい。

 負傷者は事故に巻き込まれたにもかかわらず、社会復帰のため再び電車に乗らざるをえない。電車は命を運んでおり、乗客には家族があり、生活、人生がある。被害者が電車への恐怖感を払しょくし、以前の生活を取り戻せるよう、事故原因の徹底究明と安全性回復の説明を求めたい。そしてJR西が真に謝罪し説明責任を果たすよう、事故調委から指導監督してほしい。


日勤教育がプレッシャーに
浅野 弥三一氏
(遺族)

 事故の原因究明には「運転士がなぜ、異常な速度超過をしたのか」をテーマに、JR西の運転士の教育・指導・訓練、ダイヤ編成、ATS等のバックアップシステム、経営会議などの要因に焦点を置いた調査が必要だ。

 運転士は健康的にも性格的にも問題なく、まじめな勤務態度で、過酷な勤務だったとも思えない。だが、二〇〇四年六月のオーバーランと、その後の再教育(日勤教育)の経験が運転士降格のプレッシャーとなり、さらに事故当日の伊丹駅オーバーランなどでわれを忘れた状況に陥った。

 問題視すべきは、日勤教育の経験が安全運転の技量や能力の向上につながらずむしろ精神的プレッシャーになっていたことだ。この解明のため、全運転士を対象に日勤教育へのプレッシャーの有無やその程度について調査する必要がある。

 また、JR西は安全運行の責任を運転士の技量と経験に押し付け、競争力強化と利用拡大という経営方針実現に向けたダイヤを編成しながら、安全策の措置を講じていない。上層部の営業方針や目標を、安全運行の視点から点検する仕組みが欠落していた。

 さらに、JR西の幹部は、安全運行を確保するためのハード面のバックアップであるATS―P整備への認識が決定的に不足していた。これは鉄道事業者としての経営の瑕疵(かし)だ。

 事故原因の究明と情報開示は、遺族・負傷者の立ち直りや鉄道事業の安全と信頼回復に不可欠であり、国民全体への影響も計り知れない。遺族・負傷者の声を聞くことは、この調査の中立性・客観性にも寄与する。


再教育と事故、科学的分析を
杉原 清道氏
(西日本旅客鉄道労組書記長)

 事故以前はATS―Pが重大事故防止の必要条件とみなさず、宝塚―尼崎駅間の設置も直近の課題と認識していなかった。また、基準運転時分を積算時間でなく、一定区間のトータル時間で測定することに組合としても理解を示してきた。

 再教育への基本認識は、事故状況や乗務員の経験を踏まえた指導でなければ再発防止に役立たないと考えていた。しかし、結果的に現場長の個別判断を認めてきた。

 事故直後、日勤教育が原因であるように報じられたが、疑問を感じた。国会議員や報道関係者に配布されたJR総連の資料は、発生直後にJR西日本労働組合からファクス送信されていた。

 今回の事故と乗務員の再教育の関係について、意図的とも思える情報が流布された。科学的に分析を進めてほしい。


運転集中できる環境が重要
篠原 一光氏
(大阪大大学院助教授)

 人間の注意力には限界があり、努力してもそれほど変わらない。人の作業に、速さと正確さとを両立させようとしても、一方にしか注意は向けられない。

 自動車の運転では、ハンズフリー式携帯電話でも会話することが視覚を低下させ、ブレーキの遅れにつながることが実証されている。会話が不安をかき立てるものであれば、さらに注意力を奪ってしまう。事故を起こした運転士が車掌と運転指令員との無線交信を聞いていたとすれば、カーブに気付くことが遅れてブレーキをかけるのが遅れたと考えられる。

 運転士に日勤教育などで精神的な重圧を加えた上、気になるような情報を無線で流し、注意を損なう状況を誘発してしまっている。運転に集中できる環境づくりが重要だ。


乗客を装うチェックは問題
前川 誠氏
(JR西日本労組副委員長)

 日勤教育は、運転士に過度のプレッシャーを与えてきた。乗務手当がなくなることによる生活不安や運転士を辞めさせられる恐怖感だ。私たちの組合では、日勤教育の中止を求めてきたが、会社はこれまで実態を調べようとしなかった。

 乗客を装い、運転士が分からないように運転をチェックする客室添乗も問題だ。あら探しのようなチェックもあり、基本動作ができていなかったら日勤教育となる。組合では、運転席で必要な指導を行うよう求めてきたが、会社は応じない。

 評価によって賃金に差をつける昇進賃金制度が二〇〇〇年四月に導入され、ミスを隠そうとする傾向が生まれた。鉄道業にふさわしくないと主張してきたが、受け入れられなかった。安全に対して悪影響をもたらしている面があると考える。


保安システムの改良を放置
安部 誠治氏
(関西大教授)

 運転士が曲線区間に入った直後、段階的にブレーキ操作を行っている点が気になる。

 曲線の危険性に気付いていたなら、一気に非常ブレーキなどを使用したはず。そうしなかったのは、時速百キロ程度で曲がり切れると思っていたとも考えられる。この点の解明は大きな課題だ。

 JR西日本は余裕のないダイヤを組んでおきながら、新しい車両の導入など、競争力強化のための投資を優先した。経営陣の安全思想にゆがみがあり、保安システムの改良が放置されていた。

 また、鉄道関係者が曲線区間における脱線の可能性を認識していたにもかかわらず、国土交通省は福知山線の事故が発生するまで、鉄道事業者に曲線区間の安全対策を指示していなかった。監督者の安全管理体制にも問題がある。


再教育、効率的でなかった
葭岡 庄吾(よしおか・しょうご)氏
(国鉄労働組合西日本本部書記長)

 運転士を追いこんだ心理状態の背景には、乗務員の再教育が考えられる。事故後、日勤教育がプレッシャーになっていたという問題がクローズアップされ、社会問題化した。

 人間はミスをするもので、事故またはミスをした乗務員の再教育は必要だと考える。一方で、われわれは、教育内容について、事故の中身や本人の理解度など、再発防止に役立つ教育を効率的に行うべきとの姿勢を貫いてきた。

 JR西が再教育をそのように行っていれば問題はなかったが、一部で、必ずしもこうした内容で進められていなかった実態があった。

 事故当時、業務に従事していた運転士なら、だれもが起こしたかもしれない状況や環境にあった。そのことをくみとってもらいたい。


調査の専門家、決定的に不足
永瀬 和彦氏
(金沢工業大教授)

 事故調委の口述聴取内容を見ると、人的被害について負傷者の口述内容が少ない。鉄道の知識のない人の口述内容は、原因解明の役に立たないと考えているのでは。

 事故調委には悲惨な状況を後世に伝える大切な役割がある。捜査当局の供述調書も開示してもらえないかと思う。

 運行ダイヤには余裕があったと考えており、運行計画と事故の直接的な因果関係は認められない。また、運転士についての病理学的な調査報告がないが、原因となった可能性もありうることを報告書に記載すべきだ。

 サバイバルファクター(生存要因)としては、連結面の引き戸の重要性にも触れてほしい。

 JR西日本はもちろん他社も含め、事故原因を調査する専門家が決定的に不足しており、人材育成の面でも問題がある。


<参考人の発言要旨>

ミス気軽に報告できる体制を
石井 信邦氏
(日本鉄道運転協会顧問)

 事故当日の運転状況を見ると、ぼーっとしている部分が30、40秒あり、普通の状態でいられたのか疑問に思う。運転士の過去のミスも考慮すると、事故の主要原因を、単に無線に気を取られたからとするのはどうか。

 安全確保には、ATSに依存するあまり、運転士の意識レベルが低下しないよう配慮すべきだ。再教育は当然必要だが、鉄道車両のブレーキ操作は難しい。本人の自己反省に委ねる部分があっていいのでは。そして、ミスを気楽に報告できる体制づくりが必要だ。


安全管理に10年ぐらい遅れ
黒田 勲氏
(日本ヒューマンファクター研究所所長)

 運転士の心理的ストレスが高まっていたことは事実。ただ、運転士は意識を失っていたわけではなく、ほかの要件も否定しきれない。

 JR西は経済性を最優先する企業風土だった。日勤教育は懲罰的といえ、個人の意欲によって安全性を高めるというヒューマンファクターの教育理念から著しく逆行している。安全に関するマネジメントも一般企業より10年ぐらい遅れている。

 事故調委は、大規模な事故に遭った遺族や被害者を支援するシステムを持つべきではないか。


安全対策機器の開発推進を
井口 雅一氏
(東大名誉教授)

 事故は死亡した運転士の人的要因が大きいと考える。調査は証拠を基に進められるべきだが、高速での脱線事故のため再現実験は難しく、一定の推量はやむをえない。

 制限速度を超えて曲線に入れば危険が及ぶことは容易に想像でき、運転士は正常な状態ではなかったと思われる。

 居眠りなど生理的異常を防護する機器はコストがかかる。鉄道事業者は事故犠牲者に償うためにも、社員の安全教育はもちろん、他業種とも連携し効果的な安全対策機器の開発を進めるべきだ。


<事故の経過>

2005・4・25  尼崎市のJR宝塚線(福知山線)で快速電車が脱線、マンションに衝突。死者107人に上る
同年・5・1  国土交通省航空・鉄道事故調査委員会が1―2両目は大きく傾いて横転、脱線したとみられると発表
同年・6・13  事故調委が同型車両使い、現場で走行試験
同年・8・4  運転士は制限時速70キロの現場カーブでブレーキをかけずに百十数キロで進入、と事故調委が発表
同年・9・6  事故調委が、カーブ手前へのATS設置など4項目の建議と中間報告を国交相に提出
同年・9・19  中間報告の遺族説明会開催
2006・12・20  事故調委が事実調査報告書案を公表。運転士が車掌と輸送指令の交信内容に気を取られ、ブレーキ操作が遅れた可能性が高いと示唆
2007・1・20  報告書案の遺族・負傷者説明会

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