負傷者アンケート 「事故から3カ月…戻らぬ日常」

2005/07/25

 尼崎JR脱線事故の負傷者らを対象に、神戸新聞社が実施したアンケートでは、発生から3カ月がたった現在も、けがの治療やリハビリを続け、後遺症の影に不安を抱く負傷者らの現状が明らかになった。数多く記されたJR西日本の安全への取り組みに対する要望や意見も含めて紹介する。

■けがのダメージ  …「後遺症残る恐れ」5割超

 負傷状況では、事故から三カ月が近づいても治療を続けている人が半数に達し、重傷者の多いことが分かった。後遺症はけがをした人のうち、54%が「残った」「残る可能性がある」と答えた。けがが、人生設計や日常生活に大きな影響を与えていることが分かる。

 車両別では、前になるほどけがが重く、特に大破した一―二両目と大きく脱線した三両目では、骨折や内臓損傷などが多かった。後方車両では打撲などが目立った。

 二両目で足などを骨折し、二週間以上の入院生活を強いられた伊丹市の男子大学生は「アルバイトも当分できないし、スポーツも一生できないかもしれない。普通に歩けないかもしれないということが一番耐えがたい」と記した。入ったばかりの大学で、大半の単位が取れず、友達もできていない中、秋からの登校再開に不安が募る。

 一両目で重傷を負い、現在も入院中の三十代男性は「テニス・スキーなど、スポーツを趣味としていたが、元のようにできるまでにどれだけの時間がかかるだろうか。全てが狂わされた」とつづった。

 クラッシュ症候群から回復したが、現在も歩行が困難でリハビリ通院中という川西市の三十代主婦は「筋力が低下して重いものが持てず、家事もままならない。仕事の復帰のめどもなく、不安でいっぱい」とした。

 二両目で事故に遭った伊丹市の二十代男性は「右手の神経が傷つき、字がうまく書けないために仕事に復帰できない」。二両目で足の神経を損傷した伊丹市の二十代男子大学生は「足がまひしたためにアルバイトを二つやめ、大学にも行けない」と記した。


■安全への要望 …制限速度再引き上げ 反対9割

 運行再開以降、時速百二十キロから九十五キロに下げた直線制限速度を再び引き上げる是非について、九割近くが反対した(JR西は来春の引き上げを否定)。事故を経験した人の半数近くはJR宝塚線の利用を避け、うち57%は「恐怖で乗れない」と答えた。このほか、JRの安全対策にさまざまな要望が寄せられた。

 三両目で腕の骨を負った伊丹市の三十代事務職女性は「なぜ事故が起こったのか、この先本当に事故はないのか、もっと説明してほしい。自分たちの立場を守るだけの説明はいらない」と記す。

 肋骨(ろつこつ)を折った宝塚市の四十代の教員女性は「企業体である以上、収益性を無視できないだろう。だが、それを踏まえつつも、多くの人命を預かる企業だという点を第一の配慮点とするバランスの取れた運営方針を掲げることが必要。そうなってくれることを心から望む」と書いた。

 足などを骨折した六十代無職女性は「これを機に安全最優先で乗客の意見を取り入れる会社になって、失われた信頼を取り戻してほしい。私たちも、速度が多少遅くとも安全のためなら我慢する。皆そういう気持ちを持っている」とした。


■被害補償 …具体的提示は14%

 被害の補償については、治療を続けている重傷者は被害が確定した段階で交渉に入るため、六割が「始まっていない」と答えた。具体的な提示を受けたのは全体の14%にとどまり、示談が成立したのは8%。示談は最低三万円から数万円の慰謝料に加え、治療や物損の実費などだった。

 補償への要望として記入が多かったのが、後遺症が将来発症した場合の補償だった。頚椎(けいつい)ねんざの伊丹市の五十代パート女性は「今後多少とも症状が出た場合の補償はどこまでしてもらえるか不安」と心情を明かす。

 精神面の影響に配慮を求める回答も多い。無傷だったものの、精神的に苦しむ四十代の会社員男性は「補償でほったらかしにされそうで不安。精神面は個人で回復するしかないのか」と訴える。

 また、「入院しなかったため、六月の説明会に呼ばれず、いまだに謝罪がない。『お詫(わ)び』のコピーの手紙一枚で、あんなに恐ろしく痛い思いをさせられたことを許せというのか」(神戸市の三十代女性)「他の被害者の補償の情報を示すべき」(川西市の二十代男子大学生)などの声もあった。


■自由意見 …自分のこととして考えて/被害者同士 交流できれば

・ すべての人にあの電車に自分の家族が乗っていたら…と考えて行動してほしい。大切な人が傷つき、亡くなる前に防ぎたい。もうあんなに怖い思いをする人がいないよう願っている(西宮市・三十代アルバイト女性、一両目で軽傷)

・ 集中治療室に通いつめる中、日常的に交通事故やその他、生と死の背中合わせの日々が繰り返されていることを目の当たりにした。私自身も含め『今日は他の身、明日は我が身』、短い人生で本当に大切なものは何なのか、日本中が考えるきっかけになってほしい(西宮市・三十代女性の母親、二両目で意識不明)

・ 現場や他の社会との関わりの中できちんとやるべきこと、改めること、守ることを考えて実行していける社会であるべき。JRだけを非難することに終わらず、皆が教訓にできたらいい(伊丹市・男子大学生、二両目で重傷)

・ あのような事故は二度と起きないでほしい。本当に得るものなど何もない。後悔と虚(むな)しさだけが残る(神戸市・男子専門学校生、五両目でけがなし)

・ 同じ事故に遭われた方々と交流できる機会がこれからもあることを願う(三田市・二十代会社員女性、二両目で二カ所を骨折)

・ 今回のこの貴重な体験ともう一度生きるチャンスを与えて下さったことへの感謝をしっかり心に刻み、日々精進したい。だから、JRの方々にも、できれば世の人々にも本当に大切な事は何か、真剣に考えてほしい。掛け替えのない人を亡くされた方々の心情を思うと涙があふれる。いつの日か、この悲しみが新しい価値観で癒やされる日が来ることを信じ、願っている。(西宮市・三十代パート女性、一両目で四カ所を骨折)

<アンケート回答者の内訳>

 アンケートは7月中旬に実施。JR事故車両に乗っていた負傷者ら110人が、記述式で回答を寄せた。男性58人(53%)女性50人(46%)、無回答が2人。年代別では20―30代が46%を占め、10代が15%、40―50代が27%、60―70代が10%だった。3分の2以上が事故前は平日のほぼ毎日、JR宝塚線を利用。事故当日の利用目的は、通勤・通学が8割を超え、職業は会社員が36人(33%)、学生26人(27%)、自営・自由業12人(11%)などだった。

 車両別では1両目15人(14%)▽2両目21人(19%)▽3両目30人(27%)▽4両目16人(15%)▽5両目15人(14%)▽6両目8人(7%)▽7両目5人(5%)だった。

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