尼崎JR脱線事故1年アンケート

2006/04/23

 死者百七人、負傷者五百人以上を出した尼崎JR脱線事故から間もなく一年。遺族と負傷者らを対象にした神戸新聞社のアンケート結果には、遺族の悲嘆や喪失感、負傷者の心身に与えた影響の大きさがにじむ。生活の現状、JR西日本の取り組みや事故原因についての意見、要望なども合わせて紹介する。

奪われた家族、日常/涙、怒り動揺 今なお

遺族

■1年どう過ぎた…PTSD、うつ深刻に/16%社会復帰できず

 現在の精神状況について、遺族に十五の選択肢から選んでもらった(複数回答)。「すぐに涙が出る」(63%)、「意味もなく落ち込んだり怒りを感じたりする」(51%)が半数を超え、「事故に関係する映像や情報に触れると動揺する」などが続いた。

 長女を亡くした宝塚市の六十代女性は「娘の好きな食事を作っては涙、娘の死を考えないようにしているが、ふと思い出すと涙。JR西の対応に接し、すべての物、人が信用できず、生きていくだけでストレス」と記した。

 「喪失によるショックを癒やすため、どう過ごしたか」(複数回答)では、(1)遺族同士で交流した=39%(2)仕事や趣味に没頭した=33%(3)家族や友人との交流を深めた=31%―などが多かった。

 娘を失った三田市の四十代女性は「一番キラキラしていた時期に亡くなった娘がかわいそうで、できることなら代わりたい。そんな思いを繰り返す毎日だった。こんなに悲しい苦しい人生があることを初めて知った」と書いた。

 専門家の治療やカウンセリングは、「受けた」「続けている」を合わせると二割が経験しており、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」「うつ症状」「パニック障害」などの診断を受けていた。

 また、精神的ショックなどで65%が葬儀後の一定期間、仕事や家事、通学などを休み、16%はいまだに復帰できていなかったり、仕事などを辞めたりしていた。

 補償交渉では「入っていない」が77%、「入った」「具体的提示を受けた」が合わせて11%で、「すでに合意した」はゼロだった。

 


■現在の健康状態…4割、発症や持病悪化/行政などの支援「役立った」3割

 身体の状態では、疾患の発症や持病の悪化があった遺族は41%で、うち四割近くは「喪失によるショック」との関連と診断されていた。症状は「血圧の上昇」「不整脈」「顔面まひ」「難聴」「慢性疼痛(まんせいとうつう)」などだった。

 長男を失った伊丹市の六十代男性は事故後、肩から背中にかけて張りが出たが、検査では異常がなく、心療内科で「心因性」と診断された。男性の妻も体調を崩し、夫婦での病院通いが続く。

 JR西、兵庫県警、行政、各種団体が遺族向けに行った各種の支援については、「役立った」が27%にとどまった。受けた支援は、JR西や行政などによる心のケアの相談電話、県警の乗車位置調査などだった。

 一方、11%は「役立たなかった」とし、53%は「支援は受けなかった」と答えた。理由は(1)必要がなかった=35%(2)情報がなかった=18%―などだった。

 

負傷者

■補償交渉の現状…「まず治療」6割が未交渉/費用負担折り合わぬケースも

 負傷者の補償交渉で、JR西と「合意」したのは軽傷者を中心に25%に上り、昨年7月の8%から大きく進んだ。合意内容は、けがの治療費や慰謝料、休業補償など。外傷がなかった乗客も、精神的ショックで電車に乗ることができなくなり、休業補償や慰謝料などの支払いを受けていた。

 ただ、重傷者を中心に63%が依然交渉に入っていない。理由として、ほとんどの人が「治療・リハビリが継続中」を挙げた。PTSDなどの心的症状で未交渉の軽傷者も12%に上った。

 このほか、軽傷者の8%は「JRから連絡がない」などの理由で未交渉。東洋医学などの治療費負担で折り合わず、交渉が滞っているケースも複数あった。

 JR西は21日の社長会見で、負傷者約550人の半数近くが補償交渉に合意したことを明らかにした。


■JR宝塚線…半数近く利用減らす/スピード、横揺れ恐怖消えず

 事故後のJR宝塚線の利用状況では、全回答者のうち、「以前に比べ減った」「ほとんど利用しない」「まったく利用しない」を合わせた計49%が利用を減らしていた。

 理由として、その半分以上の人が「恐怖感」を挙げた。昨年7月の前回調査でも27%が「恐怖で乗れない」と答えており、1年たっても事故のフラッシュバックとみられる恐怖心から電車を避ける傾向が続いている。

 2両目にいた伊丹市の30代の男性は現在も電車に乗れないため、マイカー通勤ができる仕事を探している。6両目にいて事故に遭い、PTSDと診断された神戸市の女性は、快速に乗れなくなり、事故が発生した伊丹―尼崎間は電車で通過できない。

 事故前と同様に利用していても、前方車両を避けたり、ブレーキや揺れに恐怖を感じたりする人も13%に上った。3両目にいた伊丹市の30代の女性会社員は、スピード感や横揺れが怖くて普通電車にしか乗れず、乗車中も常に目をつぶっているという。

 

遺族・負傷者

■JR西日本に求めること
  …「安全最優先」希望が最多/
         事故原因、乗車位置解明を

 JR西日本に求めることでは、遺族の39%、負傷者の50%が「安全最優先の企業に生まれ変わってほしい」と答え、最も多かった。

 遺族では「事故原因や組織的要因を説明してほしい」(21%)「犠牲者の乗車位置や状況を明らかにしてほしい」(19%)と続き、負傷者は「補償成立後も負傷者に窓口を開いて対応してほしい」(20%)「基準にとらわれない補償を」(12%)の順だった。

 三両目に乗っていた兵庫県猪名川町の四十代女性会社員は「JR西はつぶれることもなく、日々変わらず運行し、人々は移動のために使わざるを得ない。社員一人一人が本当に事故を自分のことと受け止めて意識改革をしてほしい」と求めた。

 事故原因をどうみるかでは、遺族は「新型の列車自動停止装置(ATS)の導入が遅れたJR西の安全軽視」(76%)、負傷者は「過密ダイヤのプレッシャー」(74%)が最も多く、「運転士の資質欠如」を上回った。

 JR西の対応について、誠意を「感じる」「一部で感じる」と答えたのは、遺族の53%、負傷者の71%。理由のほとんどが「担当者が被害者の身になってくれる」などで、誠意が「感じられない」としたのは遺族で41%、負傷者で28%だった。


■生活や仕事への影響
          …負傷者の61%支障現在も続く収入減/遺族は45%出勤減り解雇も

 負傷者の61%が、けがの治療や後遺症、精神的な影響によって、日常生活や仕事に支障が出ていた。それらが理由で、収入減や家族の負担増などの影響が「現在もある」と答えたのは26%だった。

 二両目に乗っていた伊丹市の男子大学生は、三カ月の入院生活の後、昨年九月に大学に復帰したものの、新入時の友達関係に乗り遅れ、孤独な時間を過ごすことが多かった。足が不自由でアルバイトもできず、家族の負担も増えている。

 四両目で事故に遭った宝塚市の元派遣社員の三十代男性は、治療中に社員契約を打ち切られた。現在、就職活動中だが、恐怖心から電車に乗れないため、思うように進んでいない。

 遺族でも45%が、働き手を亡くしたことや精神的なショックが原因で、収入減や家族の負担増などの影響が現在も続いていた。

 長女を失った三田市の五十代男性は、ショックなどで出勤日数が減り、二月末で解雇された。妻を失った川西市の四十代男性は、経営する飲食店の閉店時間を早め、休日を増やした。子どもとの触れ合いや家事のためで、大幅な減収となっている。


■被害者同士の交流…ケア、追及進む連携/「同じ立場、癒やされる」

 被害者同士の交流をしているのは、遺族では65%と高いが、負傷者は38%だった。交流する理由(複数回答)は、「同じ立場同士で気持ちが癒やされる」(遺族57%、負傷者71%)「情報を交換できる」(遺族59%、負傷者52%)が多く、遺族では「責任追及のため団結する必要がある」も半数を超えた。

 連携の形(複数回答)では、遺族らでつくる被害者の会「4・25ネットワーク」の参加が53%、それ以外で連絡を取り合っているのは39%だった。負傷者ではNPO法人などが開く集いへの参加が23%で、独自に連絡を取り合っているのは25%だった。

 長男を亡くした伊丹市の四十代女性はネットワークには入っていないが、子を亡くした母親らで交流を続ける。女性は「当事者同士だから分かり合え、癒やされる。事故前からの知人とも接するが、立場が違うので通じ合わない」と答えた。

 また、川西市の三十代パート女性は「普段は『どうせ分かってもらえない』と、事故のことは話さないが、同じ立場なら何でも話せて楽になれる」と答えた。



 調査では、JR西や関係機関に訴えたいことや社会に望みたいこと、現在の心境などを尋ねると、さまざまな思いや意見、指摘が寄せられた。

・多くの人が監視を …三男を失った神戸市の50代男性
 「時間帯がずれていたら、ほかの人も被害者になっていた可能性があった事故。被害者だけでなく、多くの人に、JR西があるべき姿になることを監視してほしい」

・心ある回答ほしい  …長男を失った大阪府の50代女性
 「あまりに思い出の多過ぎるこの地に住むのは、つらくてしかたありません。時間は昨年4月25日から止まったままです。JR西はマニュアルを読んでいるような回答しかなく、不安が募ります。どうか、生きた心のある回答をお願いします」

・母の最期知りたい  …母を失った県外の20代女性
 「私たちにとって何年たとうと、何一つ慰められる時は来ないと思います。最近考えることはただ一つ、母の最期です。母はどんな景色を見て、何を思い…。その部分を知らなければ、私は受け入れることも、一歩を踏み出すこともできないのです」

・安全性あればこそ  …4両目でけがをした神戸市の50代男性
 「交通手段にとって利便性と安全性の追求は相反するテーマだが、安全性の確立あっての利便性であることを再認識してもらいたい」

・社会全体の教訓に  …3両目で重傷を負った西宮市の40代男性
 「この事故から何を学び、どう行動していくべきか、社会全体の問題として考えていく必要がある。JR西も、本業の鉄道以外でも社会的な貢献をしていくべき」

<アンケートの概要>

 調査は三月、連絡先が分かっている遺族と負傷者らを対象に原則、郵送方式で実施。

 遺族では、犠牲者九十六人の遺族にアンケート用紙を郵送または直接渡し、うち同四十八人の遺族(親、子、配偶者、兄弟)計七十五人から回答を得た。回答者の内訳は父32%、母29%、兄弟15%、子12%、夫8%、妻4%。67%が犠牲者と同居していた。

 負傷者では外傷の有無にかかわらず、十―七十代の男女約二百人に記入を依頼。百十人から回答を得た。

 負傷の程度では、治療継続中38%、全治半年以上7%、同半年未満9%、同三カ月未満8%、同一カ月未満8%、同十日未満15%、無傷7%などだった。乗車車両は一両目15%、二両目17%、三両目25%、四両目15%、五両目15%―などだった。

 ※グラフは小数点二位以下を四捨五入した。合計で100にならない場合がある。

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