尼崎JR脱線 2遺族の手記

2005/05/27

 「痛かったぁ?怖かったぁ?」。妹は天国の姉に呼び掛けた。「生涯をかけてJRや国と戦う」。父は亡くなった娘に誓った。107人の命を奪った尼崎JR脱線事故の2遺族が26日までに、手記を寄せた。あの日から1カ月が過ぎたが、文章には一層深まる悲しみや無念がにじむ。

 主婦川口初枝さん(48)=西宮市=を亡くした妹(46)は、今も姉の死を受け入れられない真情を吐露する。1分1秒を大切に真剣に生きていた姉の姿を振り返り、「私にとって事故による姉の死ってどんな意味があるのだろう」と問い掛ける。

 犠牲になった大学生奥村容子さん(21)=三田市=の父(57)は、建設業に携わり、JRとも仕事をした。JRの企業体質をはじめ、国、報道機関などの対応を批判し、「事故を契機に、日本全国の鉄道、道路などの危険個所を総点検すべきだ」と警鐘を鳴らす。

 

◆川口初枝さんの妹 <全文>

姉の死にどんな意味が

 理由が見つからない。

 事故の翌日からずっと納得がいかない。

 なぜ、こうなったのだろう。なぜ、死ななければならないの?

 痛かったぁ?怖かったぁ?どこに座っていたの、そんなにスピード出てたの?

 停車が下手だったんでしょう?降りようとは思わなかった?

 あ〜あ、この運転手さん新米かしら〜と思いながら、いったん乗った電車からは誰も降りたりしないだろう。私自身だって降りないのは分かっている。

 高速道路じゃあるまいし、渋滞などなく予定通りに目的地へ人を運んでくれるはずだから。

 いつもメールを送信し終えて携帯電話を置くか置かないうちに返事が返ってくる。そんな姉からもう二度とメッセージは返ってこない。

 私の家族の無事を知らせるために姉に送った電話やメール。返信がない理由を必死で考えた。車を運転中?家に携帯を忘れた?どうして出ないの?

 ニュースでどんどん死傷者の数が増えていく。全くかかわるなんて考えていないから…。

 電話はやめた。こちらへ電話をかけようとした時に電池がなくなるから…。

 待ってるから早く返信ちょうだい!

 最近、へこんだり悩んだりした時の私に、人の出会いや起こる物事にはみんな意味があるらしいと。そして超えられない試練は与えられないと。

 穏やかに話していた。

 一度ひどく体調を崩した経験から元気になった自分をフル回転させて立ち回っていた。

 「やろうとすることにさまざまな邪魔や試練が立ちはだかる。でもそれは、本気かどうか試されているのよ」。自分に与えられたものをすべて受け止め生き生きと走り回っていた。

 どうしてそんなにがんばれるの?

 一分一秒、無駄にせず真剣に生きていた姉。一日として無駄のない、時間を惜しむように…。

 自由になる時間をすべて私や誰かのために…。姉のスケジュール帳はもう埋められることは無い。こうなることがわかっていたから?そんなの理由にならない。

 私にとって事故による姉の死ってどんな意味があるのだろう。

 

◆奥村容子さんの父 <要旨>

日本総点検し再発防げ

 私は娘をJRという組織に殺害されたと思っている。それを立件するには証拠が必要だが、死体検案書には簡単に「頸椎損傷(けいついそんしょう)」「この列車に乗っていたと思われる」としか書かれていない。これでは何の証拠物件にもならない。遺体安置所では「左足骨折」と「全身の打撲」と書かれていたが、検案書ではそれすらも削除されている。警察には正しい死因を発表してもらいたい。証拠物件もきちんと保存し、遺族にも納得できるように原因を突き止めてほしい。

 JRの言う「安全重視」の文言はすべてうそ。一円でも無駄な安全費は使いたくないというのが本音だと思う。

 事故調査委員会の発表があれば、JRはすぐに非を認め、世界に誇れるような組織に脱皮し、遺族に誠意ある補償をするよう求める。決して遺族と対立し、裁判にもつれ込むことなどないようにしてほしい。

 この大事故に当たり、皆JRバッシングに走ったが、大臣をはじめ、今、日本の危険個所を点検しようという人物、団体を見かけなかった。

 この大事故を契機に、日本全国の鉄道、道路、橋りょう、トンネル、護岸、土砂崩落危険個所をなぜ点検しないのか。危険個所はごまんとある。来たるべく東海大地震にしろ、地震が起こればどれだけの人命が失われるとのシミュレーションしか発表していない。

 それより必要なのは、人命を救う手だてを示すことではないか。神戸の大震災でも結局、元通りにしかならなかった。歯がゆくて仕方ない。

 新聞報道にも物申したい。記者会見で記者が口汚くJR幹部をののしることが許されるのだろうか。遺族とすれば、そのような記者の非人道的な質問は聞きたくない。

 ゴルフがどうの、と本筋を離れた報道をしている間に、肝心のことが隠されていく。JRと国土交通省の表裏一体の体質はマスコミも分かっているはず。肝心の所を見逃さないでほしい。事故調査委員会の調査状況について、きちんと理解できる専門的な知識を持ち、逐一報道してほしい。

 もう一度言うが、まだ遅くはない。すぐに日本総点検を始め、不具合が見つかれば補修工事を始めるべきだ。今動かなければ、また大雨で被害者が出る。山崩れで死者が出る。いつまでこんなことが続くのだろう。

 一カ月が過ぎた。遺族としては「そっとしてほしい」「いまだに受け入れがたい」。これが本音だ。一カ月が過ぎても一年が経過しても、一生娘のために重荷を背負わなければいけない。思い出はいっぱい残るが、もう娘はいない。これが家族みなさんの思いだろう。私は生涯をかけて、JRや国と戦っていく。

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