尼崎JR脱線1年 安全性向上計画の進捗状況

2006/04/25

 死者百七人を出した尼崎脱線事故の後、JR西日本は「安全性向上計画」をまとめ、昨年五月末、国土交通省に提出した。この計画は大惨事を招いた同社の「安全の誓い」であり、「社会への公約」でもある。計画は新型列車自動停止装置(ATS―P)の設置など四十項目に及び、そのほとんどで取り組みが始まった。一方で、社員一人ひとりへの安全意識の浸透はまだ不十分とされ、脱線事故後も保線作業員三人が死亡する事故が起きるなど、企業風土改革は道半ばだ。向上計画の進捗状況(しんちょくじょうきょう)を検証する。

繰り返す事故改革遅れ

安全性向上計画の実施状況

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安全性向上計画
新型ATS整備6割/鳥取の伯備線事故で露呈

◇社員の意識浸透が課題 

 JR西日本は二〇〇五―〇八年度の安全関連投資を当初計画より約六百億円上積みし、二千九百億円とする安全性向上計画を示している。

 主な投資はATS(列車自動停止装置)関連で、上積み分の三割弱を占める。新型ATSを宝塚線(福知山線)に整備していれば、脱線事故を防げた可能性が高く、遺族から「なぜ、もっと早く整備しなかったのか」と批判を浴びた。

 事故後、新型ATSを宝塚線に設置し、アーバンネットワーク(主要京阪神路線)での整備率は約60%になった。山陽線、大和路線、奈良線などでも進め、一〇年度までにアーバン地区で約95%となるという。曲線部での列車速度超過を防止するATS―SWも三月末までに、新たに千二百三十四力所で整備した。

 また、三月十八日にはJR西日本始まって以来、最も大きなダイヤ改正を実施した。三ノ宮―大阪間の「新快速」所要時間を一分伸ばすなど、ゆとりを持たせ、スピード化を推進してきたこれまでの方針を転換した。

 さらに今後、予備車両約八十両を新たに導入する。

 こうしたハード整備が進む一方、ソフト面に課題が残る。

 企業理念を作る際の全社員アンケートでは、「安全の確保」を強く意識していたのは七割にとどまっていた。

 今年一月、鳥取県江府町の伯備線で保線作業員がはねられ、三人が死亡する事故が発生。当時の垣内剛社長(現取締役)は「安全性向上計画を推進している中で事故を起こし、大変申し訳ない」と陳謝し、「(安全を最優先する)意識が浸透していなかった面もある。社員の心の持ちようを変えていくのは容易ではない」と述べた。

 社員の意識改革が重要な課題の一つに上がっている。

(中部 剛)

宝塚線3月ダイヤ改正
平均時速9.4キロダウン/駅間15―80秒延長

 脱線事故を引き起こした快速電車は、宝塚線の尼崎―宝塚駅間を最速の十六分二十五秒で走った。事故をきっかけにダイヤに余裕のないことが指摘され、JR西日本は三月十八日にダイヤを改正。同社発足以来初めて、電車の所要時間を全面的に延ばした。

 尼崎―宝塚間は、昨年六月の運転再開時と十月にもダイヤを緩和した。今年三月の改正で、事故と同時間帯の電車は、事故を起こした電車に比べ、各駅の停車時間が五秒ずつ、駅間の所要時間が十五秒―一分二十秒延び、尼崎―宝塚間の所要時間は合計で二分四十五秒、延長した。これに伴い、平均時速は九・四キロ遅い五九・一キロとなった。

 このほか、十三路線でダイヤが緩和された。三ノ宮―大阪駅間の神戸線上り新快速の平均所要時間は、ラッシュ時で二十二分十九秒から二十三分四十八秒▽昼間で十九分五十秒から二十分五十秒になった。

(本田純一)

 

哲学欠き投資判断ミス 塩沢由典教授(大阪市大大学院)

現場情報生かす改善策を

「全社的な意識改革が不可欠」と語る塩沢教授=大阪市北区、大阪市立大学大学院

 鉄道経営では、利益追求と安全投資のバランスの見極めが重要だ。

 JR西日本は民営化後、収入に対する割合でみると、JR他社と同等以上の安全投資をしてきた。それなのに大事故を防げなかった背景には、JR西が安全管理に関する経営哲学を欠き、適切な投資判断ができなかったことがある。

 大事故を招く小さな異常や事故、いわゆる「事故の芽」は無数にあり、安全管理には、現場の情報が欠かせない。
 事故後、JR西は「事故の芽」を進んで申告できる体制づくりに、重点的に取り組んでいる。これは正しい方針だが、集約した情報に基づく改善策は不透明だ。

 「事故の芽」を無くすには、現場の自主的な取り組みが必要。それには、現場の社員同士で問題を提起し、解決策を徹底的に話し合う「QCサークル」のような小集団活動が有効だ。

 これは、メーカーが欠陥商品をなくすために取り入れた手法で、現場の能力が高い日本では、現場の提案を経営に生かしやすく、効果が高い。また、現場が安全に対する前向きな姿勢を維持することにもつながる。

 経営幹部には、こうした活動を啓発したり、技術的に支援したりした上で、各現場の情報やノウハウを、会社全体の共有知識として広めることが求められる。

 JR西は現在、安全研究所の新設など、安全担当の部署の充実に取り組んでいるが、安全確保を担当者だけに押しつけてしまうと、制度が形骸化(けいがいか)してしまう。

 事故後に始まった改革を実現するには、経営トップの責任で意識改革を進めるべきだ。全社員が「事故は鉄道事業の経営にとって致命的で、安全確保は全社的な問題」と認識し、さらに、個人の責任を追及しても、安全性向上につながらないことを理解しなければならない。そのためには、安全担当の経験者がトップを担うケースがあってもよい。

 これらを検証した上で、必要な場所にATS(列車自動停止装置)を設置するなど安全投資をすれば、大事故を抑えられるだろう。

 これまで、大事故は何度も繰り返されている。「事故の芽」を一つ一つ摘み、あらゆる危険を無くすことが、脱線事故の風化を防ぐことにつながる。

(聞き手・本田純一)


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