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ずっと家族がほしかった

(4)専門里親虐待の傷と向き合う

もうすぐ夕食。少女はこの家に来て、初めて食卓を囲む楽しさを知った

もうすぐ夕食。少女はこの家に来て、初めて食卓を囲む楽しさを知った

 「家族で外出したことないねん」

  淡々とした口調で少女は過酷な記憶をたどった。眠っている間に、両親は妹だけを連れしばしば遊びに出掛けたという。テーブルにはコンビニエンスストアのおにぎりが一個。ずっと「養育放棄」という虐待を受けてきた。

  「大変やったんやなあ」。昇さん(59)と妻の貴子さん(60)は、そう答えるのがやっとだった。

  播磨地域に住む夫妻は虐待を受けた子どもを育てる専門里親だ。県内では十数組しかいない。

  少女の父は繰り返し暴力も振るった。娘の首を絞めようとする夫に怖くなった妻が児童相談所に相談。保護されてから四年間、家に帰っていない。

  里子としてやって来て九カ月。問題行動は絶えない。

  家族やクラスメートの私物や現金を持ち出し、隠す。それをとがめられても「ごめんなさい」が言えない。問い詰めると、押し黙ってしまう。

  かと思えば「お母さん」と幼児のように甘える。台所に立つ貴子さんに後ろから抱きついたり、ひざの上に乗ったり。

  ただ昇さんにはすすんで話し掛けることはない。目が合うと視線をそらす。

  自分をぶった父親と重なるのだろうか。

  少女の前に育てた女子中学生は身体的虐待を受けていた。

  「虐待を受けた子は難しいですよ」と児童相談所から聞かされていたが、現実は予想以上だった。

  夜遊びや無断外泊。大阪まで探しに行ったこともある。約束は守られず、何度も裏切られた。それでも施設に帰そうと思ったことは一度もない。ここであきらめたら、その子は二度捨てられたことになってしまう。

  「初めて母親ができてどう対応してええか分からんからとにかく反発してきた気がするわ。でも、(お母さんが)見放さんと支えてくれたから、だいぶ落ち着くことができたんやで」

  ある日、貴子さんとけんかした後に、女子中学生はこんな手紙を渡した。夫妻は大切にしまっている。

  実の親がわが子を虐待し、血のつながりのない里親がその傷をいやそうとする。家族とは何なのだろう。

  「一緒に暮らす人を、他人が悪く言ったとき、腹を立てるのが家族なんやろな」

  そう言って昇さんは十六年も前の出来事を教えてくれた。

  最初の里子で今は自活している男性が中学生のころ問題を起こした。一緒に暮らしていた一つ年下の里子の女の子は、教諭から「あんな兄貴がおったら大変やな」と同情された。

  「そしたら『きょうだいで同じように大きくなったんです。兄を悪く言わんとってください』ときっぱり答えたんやて。たとえ本当のことでも言われたら腹が立つ。それを聞いてすごくうれしかった」

  受け入れて間もない少女がいつ心を開くのか、夫妻を心から信頼するのか…。気の休まらない日々が続く。

  「二十年後は笑い話になっているかもしれない。そう信じてあの子の心をノックしているんです」=文中仮名=

(坂口紘美)

(2008/05/23)

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