社説
DNA鑑定/「絶対」はないと認識して
栃木県で一九九〇年に起きた女児殺害事件で、無期懲役が確定し、服役中の受刑者に冤罪(えんざい)の疑いが強まった。
女児の着衣から採取された容疑者の体液が、再鑑定で受刑者のものと一致しなかった。最高裁が証拠能力を認めたDNA鑑定が、覆ったのは初めてだ。
受刑者の男性を速やかに釈放し、弁護側が求める再審を開始すべきである。
栃木県足利市のパチンコ店に父親と来ていた保育園児が行方不明となり、近くの渡良瀬川で遺体で見つかった事件だ。
県警は翌年、パチンコ店の客の男性をDNA鑑定を根拠に逮捕した。男性は犯行を認めたが、一審の途中から無罪を主張した。物証が少なく、裁判では自白やDNA鑑定の信用性が争点になった。
一、二審に続き、二〇〇〇年には最高裁もDNA鑑定の証拠能力を認め、男性の無期懲役が確定した。
弁護側が求めた再審請求を宇都宮地裁は棄却し、東京高裁が昨年、職権で再鑑定の実施を認めた。検察側と弁護側が推薦した二人の鑑定人が男性の血液などを採取し、異なる方法で分析した結果、すべてが現場に残されたものと不一致だった。
逮捕時のDNA鑑定は、警察が捜査に採り入れるようになって日が浅く、信頼性を慎重に判断する必要があったといえる。
男性が当初、それほど強く犯行を否認していなかったとはいえ、証拠価値を吟味しておれば、再鑑定にこれほど長期間を要することはなかっただろう。
最近はDNA鑑定の精度が高まり、さまざまな場面で使われるようになった。未解決の事件で、現場に残された証拠が年月を経て別の事件の容疑者のものと一致し、一気に解決に結びつく例もみられる。
裁判員制度の実施に向け、最高検は客観的証拠の収集と科学的な捜査を重視する方針を掲げる。当然だし、DNA鑑定のウエートはますます高まるに違いない。
だからこそ肝に銘じておきたい。DNAの証拠能力には有無を言わせない力があるが、絶対ではないということを。犯行現場では、いつも最良の状態で証拠の試料が得られるとは限らない。そのことに対する誠実な対応が、捜査する側に求められる。
これから刑事裁判に参加することになる市民は、DNA鑑定の証拠と法廷で向き合う機会も多いに違いない。科学的な解析であっても一応は疑ってかかる。それぐらいの慎重さがあってもいい。
(5/12 09:28)
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