―復興住宅アンケート―
(掲載日:2005/01/11)

 阪神・淡路大震災からまもなく10年。被災者にとって、長く苦しい日々が続いた。アンケート結果からは「地域に戻れない」「ローンの負担が重い」「収入が半減した」など、過酷な現実に今もあえぐ姿が浮かび上がる。また、昨年に相次いで上陸した台風や新潟県中越地震などの被災者の姿に、10年前の光景がよみがえってきた人は少なくない。震災を教訓に進められてきた防災対策や被災者支援制度に対し、不十分さを指摘する声も目立つ。10年を迎えても、課題は依然として残っている。

(須々木俊夫)

試練続いた10年/険しい生活再建

〈地区の状況〉  ◇深江 半数が「復興進む」◇

 それぞれが住む地区の復興状況については、地域の違いが浮き彫りになった。復興土地区画整理事業がまだ完了していない千歳地区は「取り残されている部分がある」「遅れている」の回答が計75%を占めた。「遅れている」は、深江地区の6%に対し、千歳は31%。また、深江では16%が「完了した」と答えたが、千歳はゼロだった。

 千歳では「区画整理事業の進み方が遅い」(60代女性)「道路や街灯などが整備されておらず、夜が暗い」(50代男性)など、事業の進ちょく状況への不満も。また、「以前はケミカル工業があり、活気もあったが、今は景気がよくないので、まちが死んでいるように見える」(50代女性)と、地域活性化を願う声が上がった。

〈住みやすさ〉  ◇付き合い減り住みにくく◇

 震災前に比べて地域は住みやすくなったか―。千歳地区では「住みにくくなった」が「住みやすくなった」を上回った。深江地区は、二つの回答が同じ割合だった。

 住みにくくなった理由(複数回答)は、千歳では「近所付き合いが減った」が47%で、コミュニティーの問題が浮かび上がった。「高齢化が進んだ」も38%。深江では「マンションが増えた」が66%、「知らない住民が増えた」が55%。

 「まちは美しくなったが、老化と寂しさが進んでいく。もとの地に戻ってきた高齢者も一人、二人と減っていく」(須磨・50代女性)「コミュニティーが崩壊し、新旧の住民交流がない」(東灘・40代男性)などの意見が寄せられた。

 一方、住みやすくなった理由は、両地区ともに「街並みがきれいになった」「道路や公園が整備された」が多く、まちの整備が進んだことを評価している。

〈震災後の居住地〉 ◇借家層の4割戻れず◇


 十年近くを経て、震災前に住んでいた地域に戻れた住民は、持ち家層で85%、借家層で60%と、差が出る結果となった。地域格差も大きく、町の大半の家屋が全壊・全焼し、区画整理事業が導入された千歳地区の借家層で戻っていない割合が多い。

 地域に戻っている世帯は、深江地区の持ち家層が94%、千歳の持ち家層が74%。借家層では、深江が74%に対し、千歳は46%しかなかった。「戻りたいが、断念」との回答は、千歳の17%に対し、深江が1%だった。

 持ち家層の戻れない理由は、千歳では「資金不足」「高齢」、深江は「家族の事情」が多かった。借家層では、千歳で「区画整理の遅れ」「権利関係が複雑」が目立った。深江は「今の地域に慣れた」「家主が再建しない」などだった。

〈区画整理〉 ◇厳しい評価 必要「40%」◇

 復興土地区画整理事業が進む千歳地区の住民らに、事業導入の評価を尋ねたところ、「必要だった」は40%にとどまった。「必要なかった」は14%で、「どちらともいえない」が40%だった。

 必要の理由では「防火用水などが整備された」(70歳以上男性)と防災面の向上を挙げる人が少なくない。一方、「マンション建築などで日当たりが悪くなった」(50代男性)「空き地が多く、防犯上も心配」(40代女性)という指摘も。中には「家並みはきれいに、道路も広く、公園も出来つつあるが、昔の良き時代を引きずっていて何とも言えない」(70歳以上男性)と、まちの変化を複雑な気持ちで見ている人もいた。

〈収入の変化〉 ◇半数近くが大幅減収◇

 震災後、世帯収入の減少が続いている。震災前に比べた収入は、会社員や自営業者、パートなどを合わせた全体では「増えた」がわずか4%に対し、「減った」は70%に達した。「半分近く減」「半分以下」が計45%で、半数近くの人が大幅な減収となった。

 職業別では、特に自営業者の減収が目立ち、「減った」の回答は86%に上った。「半分以下」が51%もあり、「半分近く減」を合わせると約七割が大幅な減収だった。

 「客が商品を買わなくなった」(須磨・50代女性)「人通りが少なくなった」(同・60代女性)「仕事はしているけど量が少ない」(東灘・60代女性)などの声が上がり、地域のにぎわいが失われたことや景気低迷が自営業者の収入に響いていた。

〈仕事の変化〉 ◇自営業者、目立つ休・廃業◇

 震災で大きな打撃を受けた地域では、自営業者の休・廃業が目立つ。

 千歳地区では、「震災後に廃業」と「いったん再開後に休・廃業」は計38%に上った。「得意先が全壊し、自宅と機械が全焼。下請けのため、将来のめど立たず廃業」(70歳以上男性)「店が全焼。仕事が減り、廃業に追い込まれた」(60代女性)「家も工場もビルも全焼、再建できない」(50代女性)など、火災で店や工場を焼失し、事業を再開できない人が多かった。

 一方、会社員では、失業中か失業を経験した人は12%だった。「勤務先が地震で倒産」(東灘・50代男性)という声のほか、「会社のリストラで失業し求職中」(同・50代男性)と景気低迷で仕事を失ったケースもあった。「震災で手や足が不自由になり就労できない」(同・50代男性)という人もいた。

〈再建支援〉 ◇県の住宅共済 「入る」が半数超 ◇

 被災者の住宅再建を支援する居住安定支援制度について、震災前に持ち家だった人に聞いたところ、「高く評価する」が31%に対し、「制度創設は評価するが、内容が不十分」が62%だった。

 支給対象が住宅の解体・撤去費などに限られていることから、「建築費が対象でなければ生活復興はない」の声があるほか、「生計を建て直すのに金額が不十分」「支給を受けるのに条件がありすぎる」「全・半壊の判定が信頼できない」などが不満の理由として挙がった。

 兵庫県が創設を進めている住宅共済制度について、持ち家層では「入ろうと思う」が54%と半数を超えた。

 「年間で五千五百円程度は払いやすい」「被災したとき、再建資金は必要」などの評価の声があった。一方、「入ろうと思わない」は34%で、「生活に余裕がない」「制度の信頼性が不明」などの理由だった。

▼居住安定支援制度
 自然災害の被災世帯に最高100万円を支給する生活再建支援制度を拡充する形で2004年4月から制度化された。支給額は、自宅が全壊(または全部解体)し再建、取得する世帯に最高200万円▽自宅が大規模半壊し補修する世帯に最高100万円▽自宅、賃貸が全壊か大規模半壊し賃貸(公営除く)入居する世帯に最高50万円。建築費は対象外で、解体・撤去費などに支給。

▼兵庫県の住宅共済制度
 自然災害被害を受けた住宅の再建支援で「自助、公助と組み合わせる共助の仕組み」として震災直後から提唱。県設置の調査会は、掛け金(年額)を4800―6000円とし、住宅の再建・購入に600万円を給付する最終報告案をまとめた。補修支援は、全壊200万円、大規模半壊100万円、半壊50万円とする。報告案を受け、県は1月末までに制度を発表する。

〈防災対策〉 ◇「進んだ」7% 現状には不安◇

 行政などの防災対策への評価については、「進んだ面もあるが、不十分」が71%に上った。「まったく進んでいない」も18%あり、「進んだ」は7%だけ。被災地の多くの住民が、災害への備えについて現状では問題があると感じている。

 近い将来、発生が予想されている南海地震などに対し、重点を置くべき対策を聞いたところ(複数回答)、「消火・救助体制の強化」「災害弱者対策」「危険個所など事前情報の公開」が、いずれも40%前後と高い割合だった。

 「防災に強いまち、地震に強い家を行政と個人がともにつくり、被害を最小限に」(須磨・50代女性)「住民の意識改革が必要」(東灘・50代女性)など、住民自らの意識向上を求める意見もあった。

 

〈残った課題〉 ◇トップは「高齢者への支援」◇

  残った課題(複数回答)では、「高齢者への支援」が最も多く、続いて「まちの活性化」「住民のつながり」の順番だった。千歳地区では「まちの活性化」と答えた人が44%と目立った。

 行政の暮らしへの支援については、「一定の評価はできる」が33%。「あまり評価できない」が29%、「どちらともいえない」が24%で、「評価できる」はわずか5%だった。

 地区別では、千歳で「あまり評価できない」が多く、深江に比べて、厳しい評価となっている。

<震災10年の思い・・ひとこと・・>

教訓伝えていきたい    「語り部ボランティアをしている。私にできることは、震災で得た教訓を伝えること。人への思いやり、優しさが、勇気や生きる力を与えるのだということを伝えたい」(東灘区・60代女性) )

▼求職通じ不況を実感    「10年を迎えようとしている年に失業してしまった。神戸経済は全国よりも悪いという認識を持っていたが、求職活動の中で痛感させられた」(東灘区・50代男性)

▼将来の津波被害不安    「何度も転職、転居を繰り返しやっと今の場所に落ち着いた、多くの苦労があった。なのに南海・東南海地震で大津波がきて今の住居が水没するかと思うと不安。対策をとってほしい」(東灘区・40代女性)

▼10年本当に長かった   「南海地震などを考えると不安でたまりません。10年は本当に長い時間だった。あの時、主人を亡くし、どうやって生きていけばいいのかと思ったが、時間がいやしてくれた。主人が生きていてくれたら楽しい人生を歩めたのに、と思う」(須磨区・60代女性)

▼すべての子に教育を   「震災で家計破たんした家庭の子どもたちが就学断念せざるを得なかったのが心に残っている。すべての子に平等な教育を与えるべき。そのために市民と行政が一緒になって制度を考えたい」(須磨区・40代男性)

<新潟中越地震について・・ひとこと・・>

▼若ければ手伝いたい    「気力をなくすとだめになります。つらいでしょうが頑張って。私も若ければボランティアに行きたいですが、もう足腰が弱って…。すみません」(須磨区・70歳以上男性)

▼なぜ共済制度できぬ    「日本に住む限り(地震は)どこでも起こりうることなのに共済制度が10年たってもできないのは不思議に思う。一体だれが阻んでるのだろう」(須磨区・50代女性) (東灘区・40代女性)

▼私たちも頑張ります   「涙が出ます。私たちが10年で何とか普通の生活に戻りましたが、テレビなどを見ていて中越が元通りの暮らしになるまで何年かかるのか考えると涙が出る。私たちも頑張ります。みなさんもガンバレ」(須磨区・50代女性)

▼予知できなかったか   「地震の専門家は一体何を研究しているのか。まったく予知されることなく、新潟県中越地震は発生した。地震後に学者が出てきても、手遅れだ」(東灘区・50代男性)

▼教訓生かされてない   「神戸で経験したことがあまり生かされていないように思う。報道で取り上げられる避難所には救援物資が届けられているが、避難所に入れなかった被災者に届いたのだろうか」(東灘区・40代女性)

▼今後は心のケア重要    「震災時の土壁のにおいや、余震のときの独特な空気がよみがえってくる。小さな地震でも身構えるようになった。中越の方々も今後、このような気持ちになると思う。心のケアが重要だ」(東灘区・40代男性)

  近畿大理工学部教授 安藤元夫氏   解消されぬ「東西の地域格差」

 被災地では、もともと住んでいた地域に、戻りたくても戻れない人が、まだ多く残されている。アンケート結果では、千歳地区にいた持ち家層のうち、「戻りたいが、断念した」という回答が17%もあった。

 持ち家層は、地域にこだわりがあり、この数字の持つ意味を重く受け止める必要がある。この人たちは、震災後、何らかの条件や支援が加わっていれば戻れたはずだ。

 もし、仮設住宅が居住地の近くに建っていたら、自分の土地に自力で仮設住宅を建てることに援助があったら、元の地域で暮らせた人がいただろう。また、借家層にとって「地域に戻る」ことは、一層ハードルが高かったことを、数字があらためて示している。

 持ち家・借家層の多くが戻った地区もあった。尼崎市の築地地区では、区画整理と、長屋などを買収して住宅を建設する住宅改良事業を併用し成果があった。住民合意を待って都市計画決定したことも大きく、学ぶべきことが多い。

 一方、アンケート結果からは、地域格差が解消されていないことも読み取れる。深江地区がある神戸・東部や阪神間に比べ、長田区や千歳地区などの西部は、空き地が広がる光景からも、復興が進んでいないことが分かる。震災前から都市ストックや個人の資金力などに差があり、十年間、格差は貫かれていった。

 では、もう少し時間がたてば、西部の空き地が埋まるほど家が建つかについては、今の状況では疑問がある。大災害の後、どうしたら被災者が戻って来られるのか。自然災害が相次ぐ中、われわれには、阪神・淡路大震災がもたらした深い傷跡から、粘り強く教訓をくみとっていく責務がある。(談)。

 

  <調査の概要>

 神戸新聞社は、被災者の暮らしの実態、意識を探るため、1997年の震災2年から毎年、神戸市内2カ所で定点調査を続けている。復興土地区画整理事業対象地域の須磨区・千歳地区と重点復興地域の1つである東灘区・深江地区。復興手法の違う2カ所を選んだ。

 調査は、過去8回のアンケート回答者▽震災時に両地区に住んでいたが、その後、転居した世帯▽新しく入居した世帯―の計1000世帯に郵送や訪問などで調査用紙を配布した。

 調査内容は、住まいや収入、仕事の変化など継続的に質問している項目のほか、兵庫県が制度化を目指す住宅再建共済制度への意見、新潟県中越地震、震災後10年への思いも加えた。  千歳地区は須磨区東部にあり、ケミカルシューズ関連の町工場や民家、飲食店が密集していた地域。9割が全焼、全壊した。深江地区は東灘区南部の住宅地。4割以上が全半壊の被害を受け、259人が亡くなった。

 
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