「家賃値上げ不安」3割超す 軽減策打ち切り控え

 阪神・淡路大震災の災害復興公営住宅で、住民の三割以上が「家賃値上がり」に不安を持っていることが十五日、神戸新聞社とひょうご震災記念21世紀研究機構・安全安心社会研究所(神戸市中央区)のアンケート調査で分かった。被災者向けの家賃軽減は入居から十年で打ち切られるが、高齢者を中心に「据え置いてほしい」との声が上がっている。

 調査は神戸市内で最大規模の「市営ベルデ名谷」(垂水区名谷町、九百八十戸)で昨年十二月、入居している九百二十世帯にアンケート用紙を配布。郵送などで二百九十二世帯から回答を得た。

 今の生活で不安に感じること(複数回答)は、「健康」が最多の60・6%、「お金のこと」が57・9%で続いた。

 三番目が「家賃の値上がり」で33・2%。自由回答では「家賃が上がると生活できない」(七十九歳・女性)、「最低の年金なので家賃が上がると悲しい」(八十四歳・女性)など、切実な訴えが数多くあった。

 公営住宅の家賃は世帯収入などで決まり、被災者や低所得世帯には減免を適用。今回調査では平均月額約二万円だった。昨年春、税制変更に伴う老年者控除などの見直しで値上がりした高齢者世帯も多い。また、被災者向けの家賃軽減は入居十年で終わり、ベルデ名谷も来年から順次、期限切れを迎える。

 同住宅の高齢化率(六十五歳以上の率)は40・5%。世帯収入が「200万円以下」が67・4%。切り詰めた生活を送る高齢者世帯が目立つ。

 家賃については「適当だと思う」が44・9%で最多だが、「高い」と感じている人も28・8%おり、「安い」を約10ポイント上回った。

 被災者向けの家賃軽減がなくなる入居十一年目以降は、各自治体が定める低所得者向けの「一般減免制度」に移行。神戸市は、被災地で最も手厚い減免制度を持つが、市すまい審議会が今月、「市営住宅の管理のあり方」について家賃制度の再検討を含めた答申案をまとめた。

(磯辺康子)

 

高層 暮らし孤立化/収入 健康にも不安

 阪神・淡路大震災の被災者向けに、約4万2000戸(民間からの借り上げなど含む)が供給された災害復興公営住宅。最大規模の神戸市営ベルデ名谷(垂水区名谷町)で実施した住民アンケートでは、最初の入居から8年以上たった今も近隣との付き合いが深まらず、大規模高層住宅での暮らしに困難を感じている高齢者の姿が浮き彫りとなった。体力的な衰えが進み、災害時の避難を心配する声も目立っている。(磯辺康子、網 麻子)

 

 ◆住民の満足度 …「終のすみか」6割

 住宅に対する全般的な満足度では、「普通」を選んだ人が最も多いが、「とても満足」「やや満足」も、合わせて35・3%を占めた。

 ただ、「入居したばかりのときはどう思っていたか」との設問では、「とても満足」「やや満足」が計40%を超えており、満足度はわずかながら下がっている。

 今後については、「住み続ける」が62・3%に達し、現在の住宅を終(つい)のすみかと考えている人が多い。

 しかし、住宅への入居理由(複数回答)では、「希望した公営住宅に入居できなかった」(41・8%)、「ほかに行くところがなかった」(41・4%)が最も多く、積極的に今の住宅を選んだ人は少ない。

 「住み続ける」とした人の中には、「年なので替わりたくても替われない」「住まざるを得ない」などの消極的理由を記す人も目立った。


 ◆住宅に対する評価 …設備と家賃には満足

 「住んでよかったと思う点」は、部屋の設備などのハード面と「家賃の安さ」が上位に挙がった。「段差がないなど、高齢者が安心できる設計」を選んだ人は約半数に達している。

 しかし、高層住宅ゆえの不安は強い。「住宅の嫌な点」では、「高いところに住んでいるので、災害時の避難が心配」「高いところに住んでいるので、外出が不便」がいずれも上位に上がった。

 また、周辺環境やコミュニティーへの不満が強いのも特徴。最寄りの駅までバスを利用しなければならず、バス停と住宅の間に急な坂道がある立地のため、「買い物が不便」は四割近くに達した。「住民同士のつながりが薄い」も二割を超え、近所付き合いに課題を感じている人が目立つ。



 ◆バス・地下鉄の敬老パス …通院にも頼みの綱

 神戸市内の七十歳以上に交付される市バス、市営地下鉄の無料パス「敬老優待乗車証」は、63・4%が持っていた。持っている人のうち「よく使う」「たまに使う」が計90・2%に達した。ベルデ名谷は、スーパーや最寄り駅に行くのにバスが必要で、入居者はパスを「頼みの綱」にしていることが分かる。

 パスをめぐっては、高齢者急増で財政を圧迫する―として、市が今後の制度のあり方を検討する懇話会を設置した。自由回答欄には「パスがなくなれば医者にも行けない。取り上げないで」(女性、85歳)などの訴えがあった。

 また、介護保険の福祉サービスはほぼ四人に一人が利用。内容はホームヘルパーとデイサービスが九割を占めた。震災から十二年近くが過ぎ、入居者の心身は衰えが進んでいる。


 ◆外出の傾向は …楽しみ「テレビ、ラジオ」

 外出傾向を調べたところ、買い物のために出掛ける頻度は「週に三、四回」「週一、二回」を合わせると六割超に上った。

 「普段の楽しみ」を複数回答で尋ねた設問でも、買い物は二番目に多い30・8%で、暮らしの中で重要な部分を占める。

 「家族や親せき、友人に会うための外出」は、「月一、二回」が最多で39・0%だった。

 「通院のための外出」は「月一、二回」が最多の44・9%。「趣味のための外出」は、「月一、二回」に、「皆無」を含むとみられる「その他」を加えると半数近くになった。

 買い物を除けば外出の機会は少ないようだ。

 また、普段の楽しみ(複数回答)は、「テレビ・ラジオ」が最多で48・3%。外出傾向と合わせて見ると、社会的孤立の傾向がうかがえる。



 ◆バス停までの急な坂道 …休み休み ようやく

 住宅とバス停の間には、急な坂道がある。荷物を途中何度も置いて休憩しながら上る高齢者が目立つ。自由回答では、「坂道がつらい」との声が多く寄せられた。

 無職の女性(80)は「手術した右ひざ、左ひざ、腰の痛みのため、自宅にたどり着くまでがとてもつらい」と訴えた。別の無職の女性(72)も「だんだん外出がきつい」と記した。気管支や心臓などの持病で、坂道が負担になる人も少なくない。

 また、「動く歩道ができる触れ込みだったのに」(女性、69歳)との嘆きもあった。

 無職の男性(62)は「腰の曲がった高齢者がつえをつき、坂道を歩く姿を見ると何ともいえない気持ちになる。車で移動する人にはいいが、店も少なく、高齢者に住みよいところには思えない」とつづっている。


 ◆若年層も不満 …学校まで距離遠く

 回答者のうち六十五歳未満は25・3%。高齢者とは異なる点で住宅に不満を持っており、復興施策への批判もにじむ。

 幼稚園児と小中学生の子ども四人がいる無職の女性(32)は「幼稚園、中学校までの距離が遠い」と記した。無職の男性(51)は「大阪近くの会社への就職は、バスと地下鉄で交通費が高くなるため、それだけでアウト」と嘆く。

 また、パートの女性は、地震で自宅が半壊。夫や子どもと各地を転々とし、子どもが不登校になるなど苦労したという。昨年、この住宅に入居。「ようやく復興の始まりと思える。若いから生活再建できると後回しになった感じは今もぬぐえない。震災に遭わなければ違った人生だったかもしれない」とつづる。


 ◆自由回答欄の声から …年金収入100万円弱/元の住所には戻れず

 【死んでいくほかない】
 年金収入は年間百万円未満なので、家賃が上がるのがつらい。国民健康保険料、介護保険料、医療費などが上がり、お金のないものには死んでいくほかない生活ですね。(女性、82歳)

 【震災がなかったら】
 震災がなかったら。よくそう思う。元住んでいたところには戻れなかった。今は、買い物も通院も不便。終(つい)のすみかと言い聞かせている。(男性、65歳)

 【一人暮らしは不安】
 もし、人に知らせることができない急病のときはどうすればよいか。玄関の鍵は役所も自治会も予備がないと聞く。みな不安は持っていると思う。とるべき方法を広報してほしい。(男性、85歳)

 【本当に寂しい】
 近所とのつきあいがなく、本当に一人暮らしは寂しい。(男性、85歳)

 【居心地よく感謝】
 きれいな住宅で大変居心地もよく、家賃も安くしていただいてありがたく思う。空気も景色も良くてとてもありがたい。家賃はこのままでお願いします。収入が少ないので祈っています。(女性、67歳)

 【駐車場でもめ事】
 訪れた人が駐車場に車を止める際、駐車に必要なコインのことでよくもめる。家族や訪問看護の人にきてもらうのに困ることがある。(男性、78歳)


 ◆回答者の横顔 …60歳以上が7割超 最多は1人世帯

 年齢は七十代がトップで、六十歳以上が七割を超えた。世帯人数では「一人」が61・3%で最多。職業は「無職」が71・6%を占めた。世帯の収入は、三百万円未満が85・2%に上った。

 震災前の居住地は神戸市長田区(27・1%)が最も多く、同市西部からの入居者が約七割に上る。震災前の住宅は「文化住宅」(28・4%)、「一戸建て」(27・4%)が多く、所有形態は「賃貸」と「借地・持ち家」を合わせて73・6%だった。震災による住宅の被害は「全壊・全焼」が66・8%を占めた。

 

調査の概要

 復興住宅アンケート調査は、震災12年を前に、入居者の暮らしぶりを知り、安心できる住まいづくりに役立てることを目的に、神戸新聞社と「ひょうご震災記念21世紀研究機構・安全安心社会研究所」(神戸市中央区)が実施した。2006年12月2―8日の間、同市垂水区名谷町、「ベルデ名谷」の空き家を除く920世帯に調査用紙を配布し、郵送などで回収。292世帯から回答を得た(回収率31.7%)。

 ベルデ名谷は、8階―20階建ての計7棟。1、2号棟が1998年5月、残り5棟が99年5月に完成し、それぞれ入居が始まった。市営地下鉄・名谷駅からバスで7―8分、バス停から住宅まで急な坂道がある。65歳以上の人が占める高齢化率は40.5%。「郊外型の復興住宅の典型」として調査対象に選んだ。

 ※四捨五入しているため、グラフの数字の合計は100%にならない。

 


塩崎賢明・神戸大工学部教授(住宅政策)
空き住戸を交流の場に

 入居者は、建物の物理的な性能については評価している。しかし、それは、自分が住んでいる部屋の内側に対する満足度の高さだ。大規模高層住宅の問題点は浮き彫りになっている。

 震災前の暮らしでは、買い物に出掛けたときなどに、いつも見る顔があったり、ちょっとした言葉を交わす人がいたりして、それが一人ひとりの生活の重要な部分を構成していた。しかし、大規模高層住宅ではそういう関係が消えてしまい、閉じこもりがちになる。「普段の楽しみ」で最も多いのが「テレビ・ラジオ」という結果を見ても、高齢者の孤立傾向が表れている。

 過去に何度か復興住宅の調査をしてきたが、入居から年月がたって生活が改善しているという印象がない。団地内の集会所など、すぐ近くに出て行くのにもかなりの決心を要する高齢者が多くなっていることが分かる。身体的な衰えと、坂道などの物理的障壁が重なり、「住民同士の付き合いが増えない」という状況になっているのだろう。

 大規模な集合住宅では、住む棟が違えば交流は少ない。各棟の空き住戸を交流の場として積極的に活用してはどうか。今後、集合住宅を計画する際には、この調査で表れているような問題を考え、しっかりと反映させていく必要がある。


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