日々小論

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 先日、小包が届いた。開けると、紙製の箱に収められた一冊の歌集が出てきた。

 送り主は鈴木一誠(かずのぶ)さん。神戸市にある「太陽鉱工」という会社の会長を務めている。明治から大正にかけて神戸を拠点に日本最大の商社となった「鈴木商店」の女主人、鈴木よねの曽孫に当たる。

 何でも自宅横の蔵を取り壊すことになって整理したところ、昔の品がいろいろ見つかったという。激動の時代を生きたよねの足跡をたどる取材で話を聞いたことがあり、「興味があれば」と送ってくれたのだった。

 歌集の題は「鈴乃音」。短歌を趣味にしていたよねが77歳の喜寿を記念して昭和3(1928)年6月に発行したものだ。別紙のあいさつ文が添えられ、「その後も相変わらず達者に暮らして居ります」とあった。

 前年の4月、鈴木商店は金融恐慌のあおりで破綻した。商店を名乗りながら、鉄、船、砂糖、セルロイドなどの製造を手がけ、一時は60社超の関連会社を持つ巨大企業集団だったため、社会の衝撃は大きかった。

 よねは創業者の妻であり、社員の精神的支柱だった。歌集には、破綻して間もないころに本社事務所に立ち寄ったときのことを詠んだ歌があった。

 「きのふまで狭しとおもひし我店の何とはなしに物のさひしき」「何となくものの淋しく思はれてあはれにのこるわかすすり箱」

 破綻についてよねが語った言葉はほとんど残っていない。恬淡(てんたん)としていたと伝え聞くが、自身が愛用していたすずり箱に向ける視線には、悔しさもにじんでいたのではないだろうか。

 歌集を出した10年後、よねは85歳で亡くなった。穏やかな晩年だったという。

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