日々小論

  • 印刷

 阪急十三駅から1駅京都寄りに、南方(みなみかた)という駅がある。駅名を見た親類のおじさんが「あんな遠くまで行かんでも、近くに南方(なんぽう)があるやないか」と笑っていた。太平洋戦争で南方戦線に送られていたらしい。半世紀ほど前に聞いたことだ。

 ラバウル、ガダルカナル…。幼いころ、そんな南方の地名を大人たちの会話の中でよく耳にしたが、最近は戦時中の話を聞く機会も減ってしまった。

 西宮市出身の画家、戸井昌造さんは生前、年齢を言うときに三つ引いていたという。20歳から23歳までを軍隊で過ごして失ったからだ。著書「戦争案内」は軽妙な語りと絵で、その3年間を子細に伝える。

 徴兵検査を受けて学徒出陣した戸井さんは、陸軍の連隊と学校で訓練を受ける。柱にしがみついてセミの鳴きまねをするなどの「シゴキとイビリ」があった。「鉄拳の雨」を受けた。言葉も軍隊特有で、シャベルは円匙(えんぴ)、物の数は員数。「『…であります!』なんてやってるうちに、ぼくも、だんだん自分が兵隊になっていくのを感じた」

 見習士官として赴いた中国大陸では、野戦病院を見て「とうとう地獄に来た」と思う。マラリアの熱に苦しみ、地下陣地を掘るときに「この穴がおれの死に場所になるだろう」と覚悟を決める。「生きるための工夫なんか、まったく考えなかった」

 戦争体験は直接聞くのが何よりだが、それが難しければ、この本のような手記がある。戦争文学も少なくない。小説「火垂(ほた)るの墓」で知られる野坂昭如さんは「戦争童話集」という名作も書いた。これは小さな子どもに読み聞かせられる。

 次の世代に「戦争案内」ができるよう、できるだけ多くの活字を残しておければと思う。

日々小論の最新
もっと見る

天気(11月25日)

  • 17℃
  • 10℃
  • 0%

  • 18℃
  • 5℃
  • 20%

  • 17℃
  • 9℃
  • 10%

  • 19℃
  • 6℃
  • 0%

お知らせ