日々小論

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 映画館を出るときになって初めて、この作品には「終」がなかったことに気づいた。

 邦画は「終」「完」、米映画なら「THE END」、仏映画の「FIN」。それがない。

 ドキュメンタリー映画「東京裁判」(小林正樹監督)である。日本の戦争指導者が被告席についた極東国際軍事裁判のことだ。A級戦犯28人のうち東条英機元首相ら7人が絞首刑の判決を受けた。その記録映像にニュース映像を織り込み、上映時間は4時間37分にもなる。

 眠くなるか…とちょっと心配した。しかしまぶたはまったく重くならなかった。事実に迫っていく力、背景を解く脚本の力、デジタル処理で鮮明になった映像と音声の力。眠くなるわけがない。

 作品が公開されたのは1983年である。スクリーンには最後、大戦後も絶えない戦争が年表として映された。そしてベトナム戦争で逃げ惑う少女、あの有名な写真などとともに、館内の闇に静かに溶ける。

 それにしても、なぜ「終」がないのだろう。

 疑問に思いながら繰った「映画監督 小林正樹」で事情が分かった。脚本を担った監督補佐の小笠原清さんが振り返る。

 「『終』を書こうとして、手が止まった。『終』って、何が『終』なのか!」

 小笠原さんのためらいを知り、小林監督はしばらく最終ページに目を落としていたそうだ。そして、試写で宣言した。

 「この映画にはエンドタイトルは入れません」

 戦火はどこかで続く。この国を見ても、沖縄は基地負担にうめく。米国からの武器購入などは「爆買い」と批判される。

 戦後という名の長い物語にも、まだ「終」は入れられない。

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