日々小論

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 近年の作品で鑑賞したのは「野のなななのか」ぐらい。熱心なファンとは言えないが、それでもこれだけは絶対に劇場で見ようと心に決めていた。この夏封切りされた大林宣彦監督の遺作「海辺の映画館-キネマの玉手箱」のことだ。

 映画の舞台は監督の故郷、広島県尾道市である。閉館する映画館が最終日に戦争映画特集を組む。これを見に来た青年3人が映画の世界に迷い込み、さまざまな時代の戦争を追体験していく。戊辰戦争、日中戦争、太平洋戦争の沖縄戦、原爆が投下される広島などで直面するのは多くの人たちの死だ。

 4年前にがんで余命宣告を受け、今年4月に力尽きた監督が、82年間の人生の集大成として表現したかったものは何か。それをこの目で確かめたかった。

 実際に見て驚いた。体力的に弱りつつあった人の作品とは思えないほどエネルギーに満ちていた。3時間近い大作なのに、実験的な映像や、ミュージカルや時代劇などさまざまな表現法を駆使し、長さを感じさせない。ほとばしる反戦メッセージに終始圧倒された。

 改めて実感したのは、いろいろな戦争を通じてこの国がいかに人命を軽んじてきたかということだ。沖縄戦で日本兵が住民を惨殺する場面がある。「味方が味方を殺しちまうのが戦争さ」。このせりふが心に響いた。

 戦争を激しく憎み、平和を心から愛した監督が、戦後75年の節目に残したものはとてつもなく刺激的で雄弁だった。「日本人は体験したことを忘れて能天気に過ごしている」。昨年秋、初上映した映画祭で語っていた言葉を思い出した。「あとは君たちに任せたよ」。今は天上でそう話しているに違いない。思いをしっかりと受け止めたい。

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