日々小論

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 シカはどう見てもシカだ。しかし時の権力者が「これは馬」と言い張れば、「仰せの通り」と同調せざるを得なくなる。

 古代中国の歴史書「史記」にそんな話がある。威圧して無理強いするたとえとされる。後に続くのは忖度(そんたく)と服従…。

 「シカを指して馬となす」という故事成語は、現代にも十分通じるところがある。

 菅義偉首相は官房長官時代から、内閣人事局を通して省庁の幹部人事を掌握してきた。官僚支配の極意は、人事で生殺与奪の権を握ることだという。

 「反対するならば異動してもらう」の言葉通り、反対した官僚は実際に異動させられた。

 政治主導の意義は分かる。役所を適切にコントロールする責任が、政治には求められる。

 だが度が過ぎれば誰も「これはシカ」と言わなくなる。むしろ顔色をうかがって官僚が「これは馬」と強弁し始める。

 そんな悲しい姿を、モリカケ問題などで目にしてきた。

 過去の首相答弁との矛盾が判明した日本学術会議の任命拒否問題でも、官僚らが矢面に立って「法解釈の変更ではない」などと苦しい説明に終始する。

 言葉を重ねるほどに話の糸が絡まり、「国民や国会に責任を負えない場合にまで任命する義務はない」という開き直りめいた発言も飛び出した。任命拒否された側に非があったと言わんばかり。「俯瞰(ふかん)的、総合的」としか語らない首相を補ったつもりだろうが、暴言に近い。

 史記では、直言した者が処分された。今の日本でも、わが身はどうなると良心との葛藤に苦しむ人は少なくないはずだ。

 「これはシカ。馬ではありません」。流れを変えるのは、行政のプロとしての矜(きょう)持(じ)をかけた、明快な一言なのだが。

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