日々小論

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 「変に笑ったり、先生のくせに恥ずかしがったり、なにしろサッパリしないのには、ゲッとなりそうだ」

 太宰治の「女生徒」は若い女性が独白するような小説だ。最初に読んだとき、1939(昭和14)年作とは思えなかった。この短編は、太宰の愛読者だった有明淑(しず)が送った日記を基に書かれた。電車の席を取り合う場面など現代と何も変わらない。

 電車といえば、谷崎潤一郎が戦前の阪神間を描いた「細雪(ささめゆき)」の中で、車内の女性がコンパクトを使うというエピソードが出てくる。戦前戦中は遠い過去だが、今と地続きでもある。

 「細雪」は43(昭和18)年の中央公論新年号で連載が始まった。ところが2回目の後、軍部からの圧力で連載は中断されている。芦屋市谷崎潤一郎記念館の特別展「タブー-発禁の誘惑-」で初回掲載誌を見た。その号の特集は「座談会 総力戦の哲学」だった。

 軍部は「細雪」を軟弱で、個人主義的な女人の生活を書いたもので、雑誌には戦争傍観の態度があると指摘した。中央公論は「決戦段階たる現下の諸要請よりみて」「自粛的立場から今後の掲載を中止いたしました」との「お断り」を出した。

 自粛という名の事実上の発禁だった。谷崎記念館の展示解説には「戦時下の『発禁』は、こうしたかたちが多い」とある。軍部による用紙配給差し止めを恐れ、出版社が自ら出版物の内容を当局に合わせたという。

 これは日本学術会議の問題と重なって見える。会員候補の任命拒否や組織の見直しは、政府に批判的な人物の推薦自粛を意図しているのではないか。

 表現の自由、学問の自由が失われたかつての時代も、今と地続きなのだと自覚したい。

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