日々小論

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 作家の眉村卓さんに「随想」欄の執筆依頼をしたのは、昨年の夏のことだった。指定されたのは大阪市阿倍野区の喫茶店。若き日、家族で暮らした公団住宅の近く。「なぞの転校生」などの舞台にもなった場所だ。

 入退院を繰り返しているとのことだったが、気力を感じた。SFなどについての雑談にも楽しく応じてくださった。

 原稿はファクスで届いた。読みやすい丁寧な字が原稿用紙を埋めている。「随想」で「うまく文字が書けなくなった」と自嘲気味につづっていたが、そんなことはない。ファンにはおなじみのキャラクター、卓ちゃん人形の絵も添えられていた。

 「随想」は8回掲載する予定だったが、その途中の昨年11月3日に訃報が届いた。85歳だった。4回目の「馬鹿話」が、この欄での絶筆となった。

 だが告別式で、長編の執筆をしていたことを長女の村上知子さんが明かした。亡くなる3日ほど前、病床で最終章を書きつけた紙を知子さんに渡した。満足そうにほほ笑んだという。

 いつか読みたいと思っていたその遺作が、講談社から出版された。題名は「その果てを知らず」。主人公は眉村さん自らをモデルにしたSF作家である。

 とても不思議な小説だ。作者と重なる闘病生活を描きつつ、主人公は日常からするりと別の世界に抜け出す。と思うと、星新一、筒井康隆、小松左京らを思わせる作家らの回想が交じってくる。主人公が書く空想的な作中作も挿入される。

 底にあるのは「流れる時間がただ一つとは言えない」というSF的思考。それが新たなアイデアで展開され、生命力にあふれた壮大なラストにつながる。

 眉村さんは最後の最後まで、書く人であり続けた。

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