日々小論

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 作家三島由紀夫が東京・市谷の自衛隊駐屯地に押し入って憲法改正を訴え、割腹自殺を遂げてから50年。命日の11月25日前後には、いわゆる「三島事件」について、例年以上に手厚く報じられた。が、三島が心血を注いだ文学作品の方は置き去りの感があり、少々寂しく思った。

 もちろん出版各社はぬかりなく、関連書籍を競って刊行した。遠い学生時代、壮麗な美文に熱を上げた身には懐かしい限り。いそいそと書店に通い、文庫の新装版や評伝、特集を組んだ文芸誌などを買い求めた。

 とりわけ面白く読んだのは「三島由紀夫 石原慎太郎 全対話」(中公文庫)だ。新人時代から自死の前年まで計9回の対談を収める。古今東西の文学作品を総覧しながらの丁々発止。映画や恋愛についても自在に語り、小説家がスターとして輝いていた良き時代を映し出す。

 68年2月の対談で三島はこんなことも。「バカなコミュニケーションが発達すればするほど、国民は分裂し孤立してくるでしょう」。まるで今のメディア状況を予知しているようではないか。存命なら95歳。令和の日本を三島はどう見るだろう。

 晩年の政治行動や異様すぎる最期については、今なお謎が多い。しかし残されたのは、疑いなく一級の作品群だ。半世紀が過ぎ、偏見を持たずに三島文学を楽しめる時が来た。若い人にはぜひ、スマートフォンを置いて文庫本を手に取ってほしい。

 どれか1冊となれば「鏡子の家」を薦めたい。失敗作ともいわれる長編だが、青春との決別を描いたこの物語が妙に好きだ。そして「魅力だけで人間を判断した」という鏡子をまねてはしばしば痛い目を見た。たった1行で読む者に道を誤らせたりするから、小説ってすごい。

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