日々小論

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 神戸生まれでイタリア在住40年の画家西田藤夫さん(70)が2年ぶりに地元で個展を開いている。西田さんが描く静物画は思わず触れたくなる質感が持ち味だ。今回は、丸い毛糸玉の作品群にひかれた。こんもり盛られた毛糸玉が三つ、四つ。糸のけば立ち、つや感、柔らかい手触りまで伝わってくる。

 29歳で海を渡って以来、拠点とするイタリアは、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻で、罰則を伴う移動制限が続く。ロックダウン(都市封鎖)時は気分転換の山歩きも封じられた。

 その影響が気になったが、いつもと変わらず創作に没頭していたと西田さん。変わったのは作品を見に訪れる人々の意識ではないかと言う。

 昨年10月、大阪の個展での出来事だ。年配の女性がやはり毛糸の絵で立ち止まり「取り出して抱きしめたい」とつぶやくのを聞いた。絵の毛糸がコロナ禍でささくれた心をひととき癒やせたのなら、文化や芸術の存在価値はあると思えたという。

 西田さんは、同じ感覚を26年前にも味わっている。阪神・淡路大震災の年の秋、大阪で開いた個展の案内状を神戸の知人らに迷いつつ送ったところ、多くの人が避難先などから駆けつけた。「こんな絵を見たかった」という言葉に自分も救われた。

 毛糸の絵にも実は、コロナ禍での孤独を誰かに抱きしめてほしいという自分の願いが表れていて、あの女性の心を動かしたのでは。西田さんは自問する。

 つくり手と受け手が、らせんを描くように響き合い作品を成長させていく。芸術の底知れぬ力に触れた、ような気がした。

 個展は3月2日まで神戸阪急で。絵の中の毛糸玉を手にとりたくなる感覚を、きっと味わってもらえると思う。

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